孤独な若者とネット社会が憎悪の増幅へ

インターネットを閲覧している若者のイメージ(Image by cocoandwifi from Pixabay)
インターネットを閲覧している若者のイメージ(Image by cocoandwifi from Pixabay)

孤独感が事件の引き金に

東京・秋葉原で無差別に7人を殺害、10人を負傷させた加藤智大死刑囚(39)の刑が事件発生から14年を経て執行された。職を転々とする中での孤独感からインターネット掲示板にのめり込んだが、唯一の居場所だった、その掲示板で嫌がらせに遭ったことが事件を起こした動機だった。

孤独感が引き金となった凄惨(せいさん)な事件が近年、増えている。昨年12月、大阪市の精神科などを専門とするクリニックで、死者27人を出した放火事件が記憶に新しい。そして今月、山上徹也容疑者(41)が起こした安倍晋三元首相銃撃事件。背景や事情はそれぞれ違うが、容疑者に社会からの孤立・孤独という共通点がある。

孤独と犯罪の関連を考える上で、参考となる論考が月刊「Voice」8月号に載っている。早稲田大学文学学術院教授・石田光規(みつのり)へのインタビューをまとめた「『繋がり』を金で買う日本社会 いびつな『個人主義』が生む日本人の孤独――」

インタビューは安倍元首相銃撃事件に触れていないことから、事件前に行われたようだ。しかし、例えば大阪のクリニック放火事件について、「孤独と困窮」の中で苦しんでいた容疑者が「死ぬときぐらいは誰かに注目されたい」と、ネット検索した後に犯行に及んだことに触れるなど、孤独とネットが動機解明のキーワードになる点で、山上容疑者と重なる。山上容疑者は母親が会員となっている宗教団体への恨みをツイッターで書き込んでいた。

もちろん、孤独が直接犯罪に結び付くわけではない。しかし、わが国では今、孤独が社会問題となっており、そこから生まれた憎悪感情がネットによって増幅されて犯罪の引き金になるケースが増えるという深刻な状況にある。再発防止の観点から、孤独とネットが絡み合う構図にメスを入れることは不可欠である。

まず、孤独が社会問題となっていることを示すデータを見てみよう。インタビューでは昨年12月、政府が初めて実施した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」で、日常生活で孤独を感じている割合が約4割に達し、しかも高齢者より20代から30代の若者層が多いことが紹介された。

また、石田はユニセフが各国の若者に対して実施した国際比較調査結果を示した。それによると、「孤独だと感じる」と答えた子供の割合は、ほとんどの国では10%以下だが、日本は約30%で「ダントツで孤独感が高く」なっている。