
自動車産業全体に影響
「鄭義宣(チョンウィソン)現代自動車グループ会長に感謝し、投資に報いるために絶対失望させないように努力する」
今年5月、韓国を訪問したバイデン米大統領が鄭会長と面会後に語った言葉だ。鄭会長はこの席で55億㌦規模の米ジョージア州電気自動車(EV)工場設立に加えて未来の新産業分野に50億㌦の追加投資計画を発表した。バイデン大統領は訪韓最終日の慌ただしい日程を割いて鄭会長と会い、「サンキュー」を連発する姿は彼の訪韓を仕上げる象徴的な場面として記録された。
順調に進みそうだった現代自グループの米国攻略はわずか3カ月で暗礁に乗り上げた。先月バイデン大統領は北米で最終組み立てされるEVにだけ補助金を支給する内容のインフレ削減法(IRA)に署名した。これによると、補助金を受けられる28車種のうち78%(22車種)が米国ブランドだ。事実上、米国EV市場から海外車を排除して自国車だけ売ろうということだ。
車両を韓国で生産して米国に輸出する韓国の完成車企業、すなわち現代自グループは同法の最大の被害者に挙げられる。米EV市場で占有率2位(9%)に浮上し、1位(70%)のテスラを追撃している重要な時に、EV購入の決定的な要素である補助金を受けることができなくなったのだ。現代自グループが直ちにやれることは現地ディーラーを通じて顧客に支給するインセンティブを拡大したり、プロモーションで販売価格を低くする方法などだが、根本的な解決策にはなり得ない。2025年に完工予定の米ジョージア州工場の稼働を操り上げる方法も議論されるが、実現できても2年以上の空白期を避けられない。
完成車業者だけの問題で終わるわけでもない。韓国自動車産業協会は国内の約1万3000社に及ぶ部品業者が影響を受けると予想した。
IRAが韓米自由貿易協定(FTA)の内国人待遇原則と世界貿易機関(WTO)の最恵国待遇原則に違反するなど、明白な問題があるにもかかわらず、韓国政府があらかじめ緻密に対応して時間を稼ぐことができなかった点は残念だ。
ようやく産業通商資源部の安徳根(アントククン)通商交渉本部長が訪米して関係者らに国内企業に対する差別解消を訴えているが、11月の中間選挙を控えているバイデン政権が後退することは容易ではない状況だ。
未来産業の主導権を握るために米国だけでなく全世界の産業秩序が自国中心主義によって再編される様相だ。今後、伝統的な友邦よりは経済的利益によって合従連衡するというのが専門家たちの展望だ。こうした流れの中で個別企業が懸案別に対応するには限界がある。政府と民間の協力がいかなる時よりも重要だ。
(白曙永(ペクソヨン)産業部次長待遇、9月9日付)



