【ポイント解説】「裏切られた」韓国の国益
8月16日に成立した米のインフレ削減法(IRA)を韓国では「密室・卑怯(ひきょう)立法」と呼ぶ。訪韓したバイデン米大統領に米での電気自動車(EV)工場建設や未来産業支援で総額100億㌦を超える投資を約束し、バイデン大統領は満面の笑みで「感謝」を述べていたのに、その舌の根も乾かぬうちに「米国産EV保護法」ともいうべきIRAが成立した。韓国でなくとも「話が違う」となるのは当然だ。
今月末の国連総会に出席する尹錫悦(ユンソンニョル)大統領はニューヨークでバイデン大統領に直談判する予定という。たとえそれが実現したとしても、11月に中間選挙を控えている米国が簡単に譲歩するとは考えられない。それは韓国も分かっている。結局、国内向けに米とはトップ交渉したという形を示すだけに終わるだろう。
とはいえ、韓国も手をこまねいているだけではない。9月7日、インド太平洋経済枠組み(IPEF)閣僚会合の場で、米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表に安徳根通商交渉本部長が懸念を伝え、同問題に取り組むチャンネル開設で合意した。
とはいえIRAを改正させるには韓国だけでは難しい。そこで日本、欧州連合(EU)などとも連携して米と交渉したいところだが、安本部長が同会合に出席していた西村康稔経済産業相と会談したとは聞かない。西村氏といえば官房副長官時代に「慰安婦」をめぐって「言った、言わない」の騒動があったことから、韓国との接触には注意を払っているだろう。お互いの発表が「ニュアンスが違う」とケチが付く可能性があるからだ。
同記事の中で「伝統的な友邦よりは経済的利益により合従連衡する」と言っているのが目を引く。以前の論説でもそうだったが、最近、韓国では価値の共有よりも、国益優先を強調するようになった。韓国の取引が最も多いのが中国だ。その中国は「世界最大の自動車市場」。国内のEVメーカーも強い。韓国が「国益」を中心にしてどう動いていくのか注目だ。
(岩崎 哲)



