日本の新国家安保戦略を議論

ロシアのウクライナ侵略から1年が過ぎ、厳しさを増す国際環境の中で日本が取るべき新国家安全保障戦略について考えるシンポジウム(笹川平和財団、平和・安全保障研究所共催)が4日、那覇市内のホテルで開かれた。出席者らは、沖縄から安保を発信することや南西諸島防衛の重要性などについて発言があった。(沖縄支局・川瀬裕也、写真も)
対話と抑止力の両輪が重要 小泉氏
沖縄に安保シンクタンクを 平田氏
地政学的に台湾有事捉えよ 三船氏
日本が領土守れば有事回避 村井氏
シンポジウムでは慶応義塾大学教授の細谷雄一氏が「歴史的転換のなかの日本の針路―新しい国家安全保障戦略を考える―」と題して基調講演を行った。細谷氏は現在の安全保障環境について「冷戦後、米国は楽観的に、中国やロシアと経済協力を深めて協力する融和政策と協調政策の中間のような方針を取ったが、これが裏切られた現状が今の世界だ」と分析。
その上で、国連安全保障理事会の常任理事国であり、核兵器を保有するロシアが引き起こした現在のウクライナ戦争について、「単なる2国間の戦争ではない」とし、「人類が積み上げてきた国際秩序の規範に崩壊をもたらす事態だ」と警鐘を鳴らした。

細谷氏は、すでに英国や米国は中国を「脅威」として捉えているのに対して、「ドイツをはじめとする欧州諸国の中にはまだ楽観論がある」と危機感を示した。「数日で戦争を終わらせられるだろう」と考えた驕(おご)りと自信がロシアに軍事侵攻を決意させたとし、「同じような自信を中国に感じさせてはいけない」と強調。「そう思わせないことが今の戦略の重要なカギとなっている」とまとめた。
続いて行われたパネルディスカッションでは、防衛大綱の策定などに携わってきた、元航空教育集団司令官の平田英俊氏が登壇。今後、日本が防衛力整備を進めていく上での課題として、①信憑(しんぴょう)性のある能力と意思をもつ抑止力②明確に侵略者を撃退し得る防衛力の強化③情報戦・認知領域の戦いやサイバー攻撃等、ハイブリッド戦への備え④人材の確保――を挙げた。
沖縄について平田氏は、「多くの離島が存在し、電力、通信等の社会インフラもハイブリッド戦に対しては強靭(きょうじん)とは言えない状況」だとし、国の安全保障を沖縄の視点から考え、提言・発信するシンクタンクの設立を提唱した。
台湾有事についてのテーマでは、中国の外交戦略などに詳しい駒澤大学教授の三船恵美氏は、「台湾有事は日本有事」という言葉について、「中国と台湾の狭い空間における問題ではなく、アジア太平洋におけるアメリカと中国の覇権競争の地政学的な枠組みから見る必要がある」とした上で、中国と台湾が共に領有権を主張する石垣市の尖閣諸島へのリスクを警戒する必要があると語った。
国際関係学に詳しい東京国際大学特命教授の村井友秀氏は、「中国は台湾を(島の)西ではなく東側から攻めるシミュレーションが多く指摘されている」とし、日本が与那国島や尖閣諸島を含めた領土領海領空をしっかり守ることで、東側からの軍事侵攻を防ぐことができると持論を述べた。
昨年末に閣議決定された安保関連3文書には「反撃能力」の保有などが明記され、「日本の安全保障の大転換」などと呼ばれ、賛否が分かれている。
ロシアの軍事・安保戦略に詳しい東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏は、日本のこれまでの安保戦略を振り返り、日本が戦争加害者になることを回避するのに特化してきたと評価しつつも、被害者になった場合については「米国の拡大抑止があるから」と議論自体を避けてきたと指摘。ただ、ウクライナ戦争によって「この(日本が実際に戦争被害を受ける)可能性は無視できなくなった」と主張した。
その上で、日本国内特に沖縄において、抑止力強化を訴える人々と、対話による平和を訴える人々が互いに批判し合う構造に触れ、「どちらも、日本が使える戦略的ツールだ」とし、「対話と、対話を担保する抑止力の両輪が重要だ」と強調した。
石垣島で今月16日に開設予定の陸上自衛隊駐屯地の搬入現場では連日、自衛隊配備反対を訴える市民グループらが抗議を続けている。これを横目に玉城デニー知事は6日、基地問題を直接米国に訴えるために訪米した。
玉城氏は一貫して「対話による平和外交」を主張しているが、小泉氏が指摘するように抑止力の担保がない対話によって平和が構築される根拠は薄く、県民の命を守る知事としてはあまりに無責任な姿勢であると言わざるを得ない。



