
沖縄県民を「先住民族」であるとする国連の勧告に対し、撤回を求める意見書採択を要求する陳情がこのほど、宮古島、豊見城両市議会で採択された。陳情は県内の保守系地方議員で構成される議連が提出したもので、玉城デニー知事に対しても同勧告について県民に説明するよう求めている。(沖縄支局・豊田剛、川瀬裕也)
「琉球独立の先には台湾有事」と仲村氏
琉球国王家末裔の意見反映
この問題は2008年、国連の自由権規約委員会が日本政府宛に「琉球・沖縄の人々を先住民族と認めて、その権利を保護するべき」との勧告を出したことが発端。日本政府は勧告を否定しているが、08年以降も同様の趣旨の勧告が人種差別撤廃委員会と合わせて、計5回出されている。
しかし沖縄県民のほとんどは、自らを先住民族とは認識してはいない。祖国復帰50周年に合わせ、昨年5月に共同通信社が実施した県民への世論調査で「本土復帰して良かった」と答えた割合が94%だったことからも分かるように、県民のほとんどが本土と同じ日本人であると考えている。
では、なぜ国連がこのような勧告を出すに至ったのか。

この問題に詳しい保守系シンクタンクの日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長によると、国連勧告の背後には、反差別団体やNGOの存在があるという。これらの組織の狙いについて仲村氏は「先住民族の権利をもとに新しい自治を取り戻す『琉球独立』にある」と指摘。さらに、その先には米軍と自衛隊基地を撤去する目的があるという。
沖縄から米軍が撤退すれば中国が台湾へ軍事侵攻する危険性が高まることから、仲村氏は「先住民族勧告の問題と台湾有事はセットで考えなければならない」と警鐘を鳴らす。「台湾有事が起こった場合、沖縄も間違いなく巻き込まれる」と強調する。
昨年12月2日に行われた宮古島市議会(上地廣敏議長)第9回定例会で採択された意見書は、琉球王家の末裔である第二尚氏第23代当主・尚衞氏が、沖縄は日本に滅ぼされた先住民族ではなく、国連による沖縄の人々を先住民族とする勧告は誤っているとする意向を示していることを指摘。その上で、「琉球国王末裔の尚衞当主のご意見を尊重するためにも、国連の琉球・沖縄の人々を先住民族とする誤った認識の修正を積極的に働き掛け、二度と勧告が出されないように適切な対応の実施を求める」としている。
尚氏は、昨年5月に東京で開かれた復帰50年記念式典でも、先住民族勧告について「沖縄と内地との対立を生み、私共が願っていることとは対極にあり、とても悲しいことです」と述べている。仲村氏は、尚氏の意向が反映された意見書が県内で初めて採択されたことが「大きな一歩だ」と評価する。
続く昨年12月22日、豊見城市議会(外間剛議長)の第6回定例会本会議でも、国連勧告の撤回を求める同陳情が賛成多数で採択された。同日、「沖縄県知事に国連に基地問題を訴える前に県民に対して『沖縄の人々を先住民族とする国連勧告』の説明の実施を求める意見書の提出を求める陳情」についても審議された。
賛成の立場で討論した新垣亜矢子市議は、2021年12月6日に「沖縄の人々を先住民族とする国連勧告の撤回を実現させる沖縄地方議員連盟」が玉城知事に提出した公開質問状に対し、「沖縄県では、これまで沖縄県民が先住民族であるかの議論をしておらず、また、県全体においても大きな議論となっていないことから、このことについて意見を述べる立場にはありません」とする知事からの返答を読み上げた。その上で、「沖縄県民が先住民族との議論はないと認めながらも、国連勧告を否定せず、県民が認識していない先住民族勧告の撤回について、玉城デニー知事は行動を起こす気がない」と批判し、「本来であれば沖縄県知事として異議を唱えるべきであり、早急に対応する必要がある」と訴えた。
陳情を提出した同議連に所属する宜保安孝市議は、「このような勧告が(国連で)何度も出されていることをほとんどのウチナーンチュ(沖縄県出身者)は知らない」と指摘。「アイデンティティーはウチナーンチュの生き方を決め、沖縄の未来を決める最も重要なものだ」とした上で、「玉城知事は(国連に)基地問題を訴え、(自ら)先住民族だと誤解される行動をとるのではなく、真っ先にウチナーンチュの権利を守るために動くべきである」と訴えた。
同議連は県内41市町村すべての議会に陳情書を提出しており、国連の勧告撤回と、県民への周知に向けて引き続き活動していく構えだという。



