日米共同統合演習、沖縄で本格実施

与那国島で初の合同訓練

日米合同訓練のため、那覇軍港から搬出される米軍の汎用軍用車両JLTV=4日、沖縄県那覇市の那覇軍港(海兵隊提供)

日米共同統合演習「キーン・ソード」が10日から日本各地で行われている。南西諸島を中心に、日米間で運用能力の向上を図ることが目的だ。玉城デニー知事を支えるオール沖縄勢力が訓練で戦闘車両が持ち込まれることや空港や公道が使われることに異議を唱えているが、南西諸島を取り巻く安全保障環境は待ったなしの状況だ。(沖縄支局・豊田剛)

玉城知事は懸念表明

陸自沖縄駐屯50周年を祝う

キーン・ソードは2年に1度程度、国内各地の自衛隊や在日米軍施設で実施する日米最大規模の実動演習。今回は自衛隊約2万6000人、米軍約1万人を動員。英軍の艦艇やオーストラリア軍、カナダ軍の艦艇と航空機も加わっている。

式辞を述べる井土川一友旅団長=6日、沖縄県那覇市の那覇駐屯地

今回は、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」と、日本が直接攻撃される「武力攻撃事態」を想定し、日米の共同対処などを確認する狙いがある。

日本最西端の島、与那国島の与那国駐屯地には海兵隊と自衛隊が現場で認識共有を図る連絡調整所が設けられた。同駐屯地に米軍が入って合同訓練をするのは初めて。県が管理する与那国空港で17日と18日に演習が行われるにあたり、県は9日、防衛省が申請していた空港使用を許可した。

訓練ではまた、米軍那覇港湾施設(那覇市)と米軍牧港補給地区(キャンプ・キンザー、浦添市)は日米共同の後方拠点となる。米陸軍揚陸艇(LCU)から軍港に陸揚げしたコンテナを日米でキンザーに運び込む。

離島に上陸した武装勢力を掃討する想定の訓練展示=6日、沖縄県那覇市の那覇駐屯地

米軍普天間飛行場とキャンプ瑞慶覧海軍病院(いずれも宜野湾市)、自衛隊那覇病院(那覇市)は医療拠点となり、緊急患者の輸送訓練を行う。米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイで負傷者を鹿児島県の奄美駐屯地から普天間飛行場へ運ぶ。沖縄本島南部にある陸上自衛隊八重瀬分屯地や南与座分屯地では、地対艦ミサイルの展開訓練が行われる。

キーン・ソードが始まる4日前、陸上自衛隊第15旅団は、創隊12周年と陸自の沖縄駐屯50周年を祝う記念行事を那覇駐屯地で開催。ここでも南西諸島の有事想定がテーマとなった。

式典行事の一環として、航空自衛隊と米海兵隊が参加する訓練展示(模擬訓練)が実施された。訓練は、ミサイルや航空機の支援を受ける武装勢力が離島を占拠したと想定。偵察部隊や情報部隊が目視やドローンなどで敵の様子を確認し、電子戦部隊が敵の通信を妨害した。陸自ヘリや地対空ミサイルなどが出動。今回、第15旅団の訓練展示で初めて登場した米海兵隊第3海兵遠征隊所属の高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)も加わって敵を制圧する一連の流れが披露された。

井土川(いどがわ)一友旅団長は式辞で「15旅団は先輩が築いてきた歴史と伝統の下に、県民の皆さまからの大きな信頼を頂く存在にまで成長できた」と振り返った上で、「来年3月には石垣島に八重山警備隊が新編され、八重山から宮古島、沖縄本島まで第一列島線における部隊配備が完成する。南西諸島の抑止力の要としての役割を果たし続ける」と決意を述べた。

50周年という節目を祝うイベントだったが玉城知事は欠席。その代理で出席した池田竹州(たけくに)副知事は、緊急患者搬送や不発弾撤去などの民生支援の功績を挙げ「崇高な使命感に基づいた活躍に対し、心から敬意を表する」と述べた。一方、南西防衛や安全保障環境についての言及は避けた。

玉城知事は、主な支持母体である共産、社民両党に配慮して「住民合意もなく、地域に分断を持ち込むような自衛隊強行配備を認めない」という考えを繰り返し示している。今回のキーン・ソードについても「(今後)米軍が(与那国駐屯地に)駐留をするなど、これまでにない状況があれば、当然地元の住民から非常に大きな反発を招く。基地の過重負担につながるようなことは到底認められない」と強調。基地負担の増大で地域とのあつれきが生じ「日米の安全保障体制にほころびを生じさせることがあっては本末転倒」と指摘した。

一部の革新勢力は、「日米の訓練が住民の目に触れる形で行われると、軍官民が一体となって戦った沖縄戦を想起させる」として、民間空港・港の軍事使用を許可しないよう県に求めていた。

中国による台湾侵攻が現実味を増す中、台湾と国境を接する与那国島をはじめ南西諸島を日米でどう連携して防衛するかは喫緊の課題であることを玉城知事は認識すべきだ。