変容認めつつ守るのが肝要 金城厚氏
女性中心の祭祀で守られた沖縄文化 照屋理氏
を実演する新城亘氏=4月23日、沖縄県那覇市の沖縄県立博物館・美術館.jpg)
奄美大島から沖縄・与那国島にかけての島々、琉球弧などには数百年にわたって受け継がれてきた無形民俗文化財が数多く存在する。しかし、琉球国時代から続いてきた固有の信仰や民俗行事は、少なからず後継者不足などを理由に姿を消しつつある。沖縄の本土復帰50年を機に、保存継承の在り方が問われている。(沖縄支局・豊田 剛)
沖縄から姿を消した貴重な民俗行事に「イザイホー」がある。久高島(南城市)で12年に1度ずつ催されてきた神女の就任儀礼だが、1978年を最後に行われていない。琉球国時代から続いてきた祭礼だが、島で生まれ育ち、島の男性に嫁いだ30~41歳という条件を満たす後継者がいないため、実施されず今に至っている。
塩屋湾のウンガミ(大宜味村)、西表島の節祭(竹富町)などの行事も、高齢化や祭祀(さいし)役の不在が課題となっている。
こうした中、琉球弧の無形民俗文化財の危機について考えるシンポジウムがこのほど、那覇市で開かれ、伝統芸能や民俗学の専門家らが意見を出し合った。
沖縄音楽の研究者で東京音楽大学付属民族音楽研究所の金城(かねしろ)厚(あつみ)教授は、琉球では言霊を歌の節に乗せることでさらに力が出ると信じたと説明。その上で、伝統文化が失われている理由として、「科学が発達したからで、農業の機械化が進み、豊作を神に祈る必要がなくなったからだ」と指摘した。

沖縄を代表する芸能として最も有名なのが集団演舞「エイサー」だ。本来は、盆の期間に若者たちが集落を回って祖先を供養する念仏踊りの習俗だが、現在、主に行われているのは特に復帰後に大きく姿を変えたものだ。手踊りがメインだったが太鼓踊り中心になり、衣装もより派手なものに変化。大衆受けしやすい楽曲が使われる傾向にある。
これについて金城氏は、「エイサーは俗化の成れの果てではあるが、若い人に支持され、良い形で保存されている良い例」だという。「変化は認めなければならない。昔通り守ることだけでなく、どう変わることがより良いのか。舞台化した地域の芸能が生き延びることは、何もなくなるよりも良い」と述べた。
首里王府によって編纂(へんさん)された歌謡集「おもろさうし」の研究者で名桜大学国際学群の照屋理(まこと)上級准教授は、おもろさうしを次世代継承するため、授業で学生にかるたを作成する取り組みを行っている。照屋氏は「学生たちは、方言もおもろさうしも、分からなくても残したいと言っている。その気持ちは郷土愛なのだろう」と分析した。
シンポジウムを主催した「琉球弧の無形民俗文化財を考える会」の高江洲義寛(ぎかん)代表は、文化庁が来年4月から民俗文化財に対する支援事業を展開することを好機と捉える。高江洲氏は、年内に3度のシンポジウムを開催し、県民の幅広い理解と啓蒙を展開し、県や市町村、地域の保存会との取り組みを強化したい考えだ。
女性中心の祭祀で守られた沖縄文化

イザイホーがある久高島には民俗信仰のすごさがある。絶対にニライカナイ(来世)があってそこに行くんだという決意がある。
ところが、近代化の攻勢の中で、祭り、神、祖先、自然が失われていくようになった。沖縄戦を経験してもアイデンティティーを失わなかったのは祭りがあったからだと思う。
日本人の原点にあるのは沖縄の信仰だろう。魂の信仰が根底にある。民俗学者の柳田邦男と折口信夫が大正時代に沖縄に来てショックを受けた。沖縄には「オナリ神信仰」というものがあるが、愛情が伝わる信仰は確実に母から伝わっていったからだ。
今、世界は危機にある。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席を見ても分かるように、男性文化、男性中心の原理ではうまくいかない。システムが大きくなりすぎてしまい、管理できなくなった。金融システムも原発などのエネルギーもそうだ。結果、人間が無力になった。等身大の文化を持つことが望ましい。



