編集委員 早川 俊行
中国が台湾を軍事侵攻した場合のシナリオで、カギを握るのが米国の対応だ。トランプ前米政権時代に国務省中国政策首席顧問を務めたマイルズ・ユー氏は、3日付の本紙インタビューで、米国の台湾防衛について「戦術的曖昧さ」はあっても「戦略的曖昧さ」はないと明言した。つまり、どのような形で軍事介入するかは明確にしないが、介入すること自体に疑いの余地はない、というのだ。
米政権がこうしたクリアな方針を持っているとすれば、極めて心強い。ただ、時の政権の判断を左右するのが世論の動向だ。米国民が中国から台湾を守る意義を理解していなければ、十分な軍事介入ができない、といった事態に陥ることも否定できない。
では、米国民は実際に中国と台湾をどう見ているのか。これについて有益な視座を提供しているのが、ロナルド・レーガン研究所が昨年11月に実施した国防世論調査だ。
それによると、中国を敵と見なす米国民は75%に上り、2021年の65%から10ポイント増えた。中国に対する最大の懸念として、22%が「経済慣行」、18%が「軍拡」、17%が「人権侵害」を挙げ、「台湾侵攻」は13%で4番目だった。ただ、「台湾侵攻」は前年の7%から2倍近くに増えており、米国でも台湾有事への懸念が広がりつつあることがうかがえる。
中国による台湾侵攻への米国の対応としては、73%が「台湾を独立国家として正式に承認する」ことを支持。また、60%が「経済制裁」、56%が「ウクライナに行っているような兵器提供」、52%が「空母などの展開」、46%が「飛行禁止区域の設定」、43%が「地上部隊の派遣」をそれぞれ支持した。軍事介入の度合いが高まるほど、支持が下がるのは当然だろう。それでも最もハードルが高い地上部隊の派遣でも、支持が不支持(36%)を上回っていることは注目に値する。
総合すると、米国の世論は中国への警戒を強め、台湾有事への軍事介入に一定程度の理解を示しているとみていいだろう。
一方で、レーガン研究所の世論調査には、気掛かりな結果もある。それは米軍への信頼が急落していることだ。
米軍に「大きな信頼」を持つ割合は、17年の70%から昨年は48%へと低下した。信頼低下の理由として、62%が「軍指導部の過度な政治化」を挙げ、50%が「ウォーク(差別問題に敏感なこと)」と呼ばれるリベラルな価値観に基づく社会政策が米軍の機能を低下させているとの見方に同意した。
米軍はこれまで、党派対立から距離を置くことで中立的なイメージを保ってきた。だが、オバマ、バイデン両民主党政権下で米社会に分断をもたらしている過激な左翼イデオロギーが持ち込まれ、米軍のリベラル化が進んでいる。これが信頼低下の大きな要因になったとみられている。
台湾有事のシナリオがいよいよ絵空事ではなくなる中、左翼イデオロギーの浸透が米軍の信頼を蝕(むしば)み、士気や結束にも悪影響を及ぼしている状況は決して看過できない。



