
教育部長 太田 和宏
大学改革が叫ばれて久しい。新卒を採用する企業から「大学在学中に専門教育をしっかりしてほしい」と即戦力を望む注文が大学側に厳しく届く。大学が変わらなければ大学入試、高校入試、中学入試、小学校、幼稚園の“お受験”も変わらないし、変われない。また、“過労死レベル”と言われる教員の働き方改革も進めなければならない。教育現場は改革の行方を見ながら右往左往している。
物事を大きく変えようと思えば、上からの改革と下からの改革が順次・並行して行われなければならない。上からの変革は大学からの新卒を受け入れる、企業の就活改革であり、下からの改革は文部科学省の学習指導要領による改革だ。
大学生の就活改革は数年前から語られてきた「主体的・対話的で深い学び」の推進だ。当初はアクティブ・ラーニング(AL)と呼ばれ、文科省の方針で「詰め込み教育」と「ゆとり教育」の間で右往左往してきた教育現場の感覚では“万能薬”のように思われた。実際に始めてみると、それまでの学習とどこが違うのか、アクティブだから、動きがあればいいのか、どうも違うぞ、児童の頭の中、考え方が活性化しているかどうか、だという方向性が見えてきた。それに向けて小グループの対話やタブレット教育だということになる。
児童・生徒が自分で考え、小さな班を形成していろんな意見を聞き、発言する場を多くする授業というのが見えてきた。すると、「ゆとり教育からの脱却」ということで、教科書をすべて教える時間が不足する。小学校では「特別の教科 道徳」が正式科目になり、英語の時間が増え、とてもではないが、教科書を消化できなくなった。いろんな課題を現場の教師は調整しながら何とかやりくりして、高校での授業までたどり着いた。
大学において、入学当初から専門教育をという企業からの要請に応えようとする改革が行われると、専門書を読みこなしたり、基礎的な知識が無いことが分かってきた。小中高で読む、書く、考えるという学力の基礎が培われていないからだ。
大学入学共通テストの2025年1月実施に向け改革が進められている。数学や理科、社会など筆記問題が増え、考えた後を評価する方向に進んでいる。英語においては、聞き取りに加え、発音・発言も評価する方向に進んでいる。高校の文科系では理科や数学を詳しく学ばない、理科系では歴史や社会を学ばない傾向があり、こうした問題も解決する方向に進められている。
小学校から1人1台タブレット制度を導入したり、人工知能(AI)機器を導入して英語の学習なども進んでいる。生まれた時からネット環境が整っていた“Z世代”にすれば、お手の物だろうが、情報過多の時代、検索すれば、すぐに答えや情報が集まり、いっぱしの文章が書ける。読む、書く、考えるという学力の基本をおろそかにせず、考え方や発言の基になる情報が玉石混交の時代。新聞や辞典などの情報も活用する視点を持ってもらいたい。



