異例のロシア軍事パレード、プーチン氏のパラレルワールド崩壊の始まりか

高まるロシア国内の不安

モスクワの赤の広場で挙行された軍事パレードは明らかに例年のそれとは異なっていた。小規模だった。モスクワは厳しい防空態勢が敷かれた。軍事パレードでは過去、戦車の全部隊がモスクワの赤の広場を行進したが、今年のパレードに参加した戦車は、他の軍用車両と共に1両だけでソビエト時代のT34だった。

9日の「対独戦争勝利記念日」は本来、ナチスドイツに対する勝利を記念する祝いだが、今年はウクライナでのロシア軍の後退という重苦しい雰囲気の中で行われた。プーチン大統領の口からは新しい軍事計画、戦略などは一切聞かれなかった。西側のロシア専門家たちは「9日のプーチン大統領の演説には新しい内容はまったくなかった」という点で一致している。

なお、ドイツの高級週刊紙「ツァイト」のオンラインで9日、マキシム・キレフ記者は「プーチン体制の亀裂」という見出しの解説記事で「ウラジーミル・プーチンはいつものように西側諸国を侮辱し、ウクライナでの勝利を宣言したが、ロシア国内の不安は日増しに高まってきていることを感じさせた」と分析していた。プーチン氏の「パラレルワールド」に亀裂が出てきている、というわけだ。

自身を救済者と意識

プーチン氏はウラジーミル・セルゲイェヴィチ・ソロヴィヨフ(1853~1900年)のキリスト教世界観に共感し、自身を堕落した西側キリスト教社会の救済者と意識している。そして自分をキーウの聖ウラジーミルの生まれ変わりと感じ、ロシア民族を救い、世界を救うキリスト的使命感を感じているのかもしれない。

「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学(けいじじょうがく)的闘争」(ロシア正教会最高指導者キリル1世)というナラティブ(物語)を信じているとすれば、プーチン氏のパラレルワールドの崩壊をソフトランディング(軟着陸)させることが欧米社会の大きな課題となる。

(小川 敏)