韓国にのみ履行迫る
ロバーツ氏はかつて米国では核廃絶派と核抑止派の二つの相いれない立場があると指摘していたが、今日では「核兵器の廃絶を望むが、それができないのであれば、安全を望むという立場」との三つ目の立場が米国の多数派だとしている。
要するに核廃絶は理想であるが、現実的には核抑止力を、という常識的な見解で、岸田文雄首相にとってはわが意を得たりの思いだろう。清宮特派員は取材を終えて「核抑止か、核廃絶かの二項対立を超えた議論がますます求められていると感じる」と記している。では、当の朝日自身はどうだろうか。
「核」を巡っては4月の米韓首脳会談で新たな動きがあった。核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対抗し、韓国が米国の核計画の策定への関与を一定程度認める「核協議グループ(NCG)」を新設し、米国の「拡大抑止」の強化を図ると宣言したことだ。
これを受けた朝日4月29日社説は「『核』頼みに成算はない」と核抑止力を真っ向から否定してみせた。「核をもって核を制する発想で北朝鮮を抑え込めるとの考えは危うい。核兵器の配備も禁じた1991年の南北非核化共同宣言を韓国自らが破ることにもつながりかねない」。これには思わずハアーと溜息が出た。
ロバーツ氏は2023年の状況は14年前の09年とは全く異なるとしているのに朝日にとっては22年前の状況が今も続いているのである。その間、南北非核化共同宣言にあった「核兵器の実験、製造・生産、配備、所有、使用を行わない」はとっくに北朝鮮に破られている。それをさておいて韓国にその履行を迫るとは。それも今回の米韓合意では「米政府高官は、韓国への核兵器の配備は行わないと説明して一線も引いた」(朝日28日付)にもかかわらず、である。これではまるで北朝鮮のプロパガンダだ。なるほど朝日(ちょうにち)新聞と揶揄(やゆ)されただけのことはあると妙に感心させられた。



