「同性カップル2世」問題を避け浅薄に終わったNHK「同性婚」討論

生物学的側面触れず

さらに、討論で誰も触れなかったことがある。「婚姻には自然にもとづく側面もある」(大村敦志著『家族法』)ことだ。つまり、結婚には男女の異なる性の「交配」による「種の再生産」の側面もあるのだ。同性婚の是非を討論する場合、生殖という生物学的な面も避けては通れないのである。

NHKが2月に行った世論調査では、同性婚に「賛成」と答えた人は54%、「反対」29%だった。これは結婚における生物学的な側面についての意識が国民から薄れる一方で、「愛情」の側面だけを見る人が増えていることを示唆している。深刻化する少子化問題の背景にはこの問題があるのだが、それを指摘する政治家はいなかった。

結婚という社会の根幹に関わるテーマを解釈主義に立ち、世論の動向(ポピュリズム)によって相対化させると、さらに複雑な問題を提起させる。かつて同性婚がそうだったように、今は表に出てこないが、将来、一夫多妻、多夫一妻、複数結婚の法制化も俎上(そじょう)に載る可能性がある。

法制化で新たな課題

そうでなくとも、同性婚の法制化は社会に新たな課題を突き付けることになる。精子提供や代理出産などによる出産・子育ての問題だ。同性婚は認めるが、出産・子育ては認めないとなると、憲法14条の「法の下の平等」に反するし、「種の再生産」は生殖補助医療で解決できるとの主張も出てくる。

もし、NHKの世論調査項目に「同性カップルの出産・子育てをどう思うか」を加えれば、同性婚に対する国民の意識が変わり、容認派の割合が減る可能性もあるのではないか。代理出産の非倫理性、同性の両親の下で育つことの子供への影響、そして他の子供たちと同じく父母の下で暮らすことを望む子供の人権など「同性カップル2世」問題も考慮に入れて、憲法と同性婚の是非を討論させたら、NHKの企画も興味深いものとなったろう。(敬称略)

(森田清策)