「直筆シナリオ」確認
朝日新聞が今年1月4日付で「核密約へ詳細シナリオ」を報じると、再び「密約」がクローズアップされた。若泉氏の「直筆シナリオ」が明らかにされたからだ。これを朝日に提供したのが「佐藤を義祖父に持つ参院議員の阿達雅志」。シナリオには佐藤・ニクソンが署名する細かな段取りまでが示されていたという。
朝日が報じてから既に4カ月。沖縄密約問題は特に国会で議論になっているわけではない。今回文春が再度報じて、「密使」若泉氏にスポットライトを当てても、安全保障を巡って国民的議論が沸き起こるという気配も今のところない。
ウクライナ戦争は出口が見えず、台湾海峡はきな臭さを増し、北朝鮮はミサイル発射を繰り返す。わが国周辺の情勢は激しく動いている。「台湾有事はすなわち日本有事」という1年前の安倍晋三元首相の語勢は今も空気を振るわすのだが。
若泉氏は一身が負うには重た過ぎる秘密を抱え、それ以前に秘密づくりに関わった張本人として、その重さと責任に耐え、他に策のなかったことを訴えた。国内が問題にしなければ世界に訴えるまでと英訳版も準備した。96年5月、後輩の谷内氏に「日本を頼む」と託し、同年7月英訳本刊行を見届け「もう思い残すことはない」と言って、若泉氏は自裁した。享年66。
今日の日本への命題
「若泉氏が遺したものは何だったのか」と同誌は谷内氏に問うている。谷内氏は「日本の安全保障の在り方に命を尽くした方でした」「“最悪の事態を想定し、充分な抑止力を含めた備えをするべき”――そう強く訴えてきました。これは、二〇二三年の日本にも突き付けられている命題とも言えます」と答えた。
また「『他策』の公刊で若者たちの魂に火が灯り、堕落から再起することも期待していた」とも。
では、同誌に聞こう。今若泉氏を紹介する意図は何なのかと。沖縄の基地負担を含む真剣な安全保障論議なのか。今もなお「我々に重く、深く問いかけてくる」若泉氏の問いにどう応えるのだろうか。
(岩崎 哲)



