社会の高齢化に伴い増加する高齢者への差別問題を特集した独誌

世代間の対立が激化

また、中国武漢発の新型コロナウイルスは世界のエイジズムを加速化させたという。高齢者は一般的に感染危険率が高いと受け取られ、隔離が強化されていった。すなわち、高齢世代と若い世代間の世代対立を激化させたわけだ。

ヘルシンキ大学神学部から名誉博士号が与えられたスウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんが、「あなた方(高齢者)は私の夢と子供時代を奪ってしまった」と非難した有名なせりふを思い出す。「高齢者は久しく多くを消費し、未来に投資せずに、若い世代に負債を残している」といった内容だ。

ドイツのショルツ連立政権は政権発足時に連立協定で「社会全般のデジタル化の促進」を目標に掲げたが、IT技術の普及によって高齢者はますます疎外感を深めている面も否定できない。航空チケットの搭乗券を空港内で入手するのにも自動発券機で処理しなければならないから、ITの使用に慣れていない高齢者にとっては若者の厳しい目を気にしながら汗を流さざるを得ない。

ITサービス企業「サン・マイクロシステムズ」社の創設者の一人、ビノッド・コースラ氏は、「発想力という観点からみれば、45歳以上の人間はもう死んでいる」と主張。また、メタ最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏は、「若い人間の方が賢い」と言い切っているほどだ。

IT化で困難に直面

IT関連知識や操作能力に関してはIT企業トップの意見は正しいかもしれないが、IT関連の知識やノウハウだけが人間の能力を測るものではないはずだ。ただ、IT社会で生きている現代人にとって実際、スマートフォンやコンピューターを駆使できなければ、さまざま困難が出てくることは事実だ。

米国では行き過ぎたエイジズムに対して批判的な声が上がってきているが、ドイツでは高齢者問題では対応がまだ遅れている。シュピーゲル誌は「ドイツでは高齢者は差別されている。時には緻密に、時には残酷に」と述べている。

(小川 敏)