知事・政令市長で「全勝」強調

自由民主 統一選前半

統一地方選挙で遊説する岸田首相=4月15日、和歌山県
統一地方選挙で遊説する岸田首相=4月15日、和歌山県

触れられない関西での惨敗

4月9日に投開票された統一地方選の前半戦は、9知事選、6政令市長選、41道府県議会議員選、17政令市議会議員選が行われた。「自由民主」(4・18)では8面で選挙結果を報告。「わが党各地で勝利」と自民の堅調さを強調した。特に、自治体首長を選ぶ知事選・政令市長選については「推薦候補が全勝」の見出しを付けた。

知事選で自民が推薦した候補は、北海道の鈴木直道氏、福井県の杉本達治氏、島根県の丸山達也氏、大分県の佐藤樹一郎氏の4人。このうち北海道と大分は与野党対決の構図で、同紙は「いずれも完勝」「大きな成果を挙げた」と評価した。推薦候補が全勝という見出しに間違いはないものの、重ねて勝利を強調する紙面には少々違和感もある。

今回の知事選で最も話題と注目を集めたのは、自民の分裂っぷりだ。徳島県知事選では、異例の保守3分裂の様相を呈した。党県連から推薦を受ける現職と、自民の衆院議員と参院議員をそれぞれ辞職して出馬した新人2人、ここに共産党候補を加えた4人で争い、元衆院議員の後藤田正純が当選した。結果的には自民の勝利と言える結果に収まったものの、一時は自民を離党した元県議を加えて保守4分裂の可能性すら浮上しており、選挙前から政策以上に分裂騒動が注目され続けた。

徳島の例は有権者に保守の「ゴタゴタ」を見せつけるにとどまったが、分裂が選挙結果にも大きな影響を与えたのが奈良県知事選である。自民からは党県連の推薦を得た新人と5選を目指す現職が立候補。日本維新の会公認の新人との三つどもえの構図になり、漁夫の利を得た維新候補の勝利で決着した。

この結果は統一地方選前半戦におけるハイライトといえるだろう。維新が大阪府以外で知事選を制したのは初めてのことで、翌10日のトップニュースにもなり、維新の躍進を印象付けた。ただ、前述したように奈良の選挙結果は自民の分裂によるところが大きい。当選した維新公認の山下真氏が26万6404票を獲得したのに対し、自民系の新人・平木省氏と現職・荒井正吾氏を合わせた票数は29万3762票で約3万票多い。立憲民主党の県連が平木氏を支持、国民民主党の県連は荒井氏を推薦しており、単純計算はできないが、候補者を一本化できていれば結果は違った可能性も大いにある。

党のバックアップ体制の差も明確だった。維新は選挙戦初日から馬場伸幸代表をはじめ、党幹部らが続々と応援に入り、候補者と並んで街頭演説に臨んだ。一方自民は平木氏の擁立を主導した高市早苗経済安全保障担当相(県連会長)が総務省の放送法文書問題が影響しほとんど奈良入りできず、ついにツーショットを見せることはなかった。加えて森山裕選挙対策委員長が荒井氏を激励したとの報道もあり、高市氏は「県連推薦以外の方を応援したのかと疑問の声が上がっている」と不満を漏らした。

道府県議選では、自民は占有率51%と前回を上回り盤石な強さを見せた。ただ、大阪府議会に関して言えば、定数79のうち7議席しか獲得できず、改選前から9議席も減らした。大阪府知事選でも大阪維新の会の現職・吉村洋文氏に大差をつけられており、知事選は実質2敗だ。

関西、特に大阪で自民党はもう強い党ではない。各種世論調査によると自民の支持層のうち一定数が維新に流れている。機関紙であっても「惨敗」に少しは触れて、次こそはという気概を党員に見せることが復調の第一歩ではないだろうか。

(亀井 玲那)