中国がぶら下げたニンジンの赤い野心が見抜けない毎日、日経

カード持たない外交

今回、林外相は中国に対し拘束日本人の解放を求めた。だが、どう考えても本気で解決しようとしているように見えない。「私はちゃんと中国に要求しましたよ」という日本に向けたポーズであり、アリバイづくりとしか思えないものだった。

本気で外交成果を上げるなら、ルーズベルト元米大統領の「棍棒(こんぼう)外交」が必要だ。セオドア・ルーズベルト氏は、西アフリカの諺(ことわざ)である「棍棒を持って、静かに話せ、それで言い分は通る」を外交哲学とした。

無論、日本に棍棒となるような絶大な軍事力はない。だが相手の急所を針でつつくことぐらいはできる。中国の「弁慶の泣き所」はどこか。それは中国が最も困窮している半導体製造装置の輸出規制を厳格化することだ。それをバーゲニングパワーにして早期解放を迫るくらいの腹が必要だ。

だが、林外相は何のカードも持たないまま、ただ拘束された日本人の早期解放を求めた。これに対し秦外相は「法に基づき対処する」と返事を寄越(よこ)しただけだった。こうした対話は「百年、河清を待つ」(濁った黄河の流れが澄むのを待つ)そのもので、長期間何回やっても生産的成果を上げることは難しい。

そもそも2014年に制定された中国の反スパイ法は違法行為の線引きが曖昧だ。つまり中国政府は、どういう人物でも合法的に拘束し続けることが可能だ。秦外相発言は、法治国家として真摯(しんし)に対処するという趣旨のものではなく、真意は「中国政府の好きなようにさせてもらう」にすぎない。