「抑止力」の文言がどこにもない左派紙 ウクライナ侵攻1年の社説

欺瞞的態度浮き彫り

朝日社説はこう言った、「戦争の理不尽 許さぬ知恵を」(24日付)。どんな知恵なのかと言うと、「政治体制も統治理念も様々な国からなる国際社会が、全体として責任を持つ集団安全保障」を挙げていたので正気を疑った。それができれば世話がない。

今さらだが、集団安保は国連憲章7章にある。国連の安全保障理事会が特定国の行動を「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」と認めれば、国連が軍事措置などの強制行動を取って平和を回復する。その際、国連は加盟国に兵力(軍隊)提供を求め特別協定を結んで「国連軍」を創設し、侵略行為を粉砕する(同43条)。それが集団安保である。

むろん安保理事会の常任理事国に拒否権を発動されれば、実行に移せない。朝鮮戦争時に旧ソ連が安保理を欠席したため変則的に国連軍が組織されたことがあるが、それっきりである。ロシアのような常任理事国が侵略国ならなすすべがない。国際常識である。

それに朝日が本気で集団安保を言うなら国連に兵力提供できるよう自衛隊を「軍」にしておかねばならない。それに反対しておきながら、気安く集団安保を言うのは、文字通りのざれ言である。

朝日社説はその続きに大慌てでこう書く、「ただし、バイデン米政権が説く『民主主義対専制主義』といった対立軸では、かえって世界の分断を深める恐れがある」と。これにも驚かされた。戦後、朝日はサンフランシスコ講和条約では共産主義国を含めた「全面講和」「永世中立」を掲げ、1960年の日米安保条約改訂では「中立」を唱えた前歴がある。今回の朝日社説はそれを彷彿(ほうふつ)させる。

国連憲章ですら集団安保では平和はおぼつかないと考え、伝統的な自力救済システムである「個別的及び集団的自衛権」を国家の固有の権利と認めている(51条)。その個別的(自衛隊)にも集団的(日米安保条約)にも否定的態度を取ってきたのが朝日である。要するに国連憲章による平和構築システムすら認めていない。それは心の底に非武装中立論があるからだろう。その欺瞞(ぎまん)的態度がこの社説で浮き彫りになったように思う。