「安倍氏の名誉挽回」図る原告代理人
また、北九州市などのように、断絶決議を自民党議員を含め全会一致で採択した地方議会があるかと思えば、教団との関係を調査せよとの請願を共産党だけが賛成し、圧倒的多数で不採択とした取手市議会のような議会もある。この違いを生んだものは何か。同氏の論考に関心を持ったもう一つの理由はここにある。論考を一読してまず気付かされたのは後者についてだった。同氏は次のように指摘する。
「断絶決議を行った市議会には、これまで旧統一教会の関連団体と深い関係を築いてきたという共通項がある。そこにはマスコミの責任追及から逃れるための自己保身が見え隠れする」
全国の地方自治体のうち、どれほどの数の議会が教団との断絶決議を行っているのか、筆者は把握していない。しかし、統一地方選を控えた時期に、教団との関係が深かった議員ほど保身から、マスコミの追及と有権者の批判から逃れるため、断絶決議に賛成したというのは、納得できる推論だ。教団と関係を持ってもわずかか無関係であれば、近年、刑事事件を起こしたこともなく、幹部が不法行為に問われたこともない教団を「反社会的団体」として指定暴力団並みに扱うことの是非は、中立的な立場で冷静に判断できるはずである。
だから、徳永氏は「いやしくも地方議会たるものがなんらの公権的な手続きも経ないで特定の宗教団体を反社指定し、差別的な取り扱いをすることの異常性を感じていないことに暗澹たる思いがする」と慨嘆している。
その関連で、思い浮かぶのは岸田首相による自民党と教団との「断絶宣言」だ。自民党は地方議会とは違い公的機関ではないとはいえ、公的性格の強い「公党」である。その総裁であるにもかかわらず、地方議会同様、しっかりとした事実関係の把握と法的な検討を経ずに教団を「反社会的団体」(反社)と事実上、認定してしまったのである。
かねて教団を反社として、その解散を主張してきた左派弁護士を中心にした全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、安倍氏銃撃事件以来、高額献金や2世問題などを前面に押し出して教団潰(つぶ)しに躍起になっている。宗教や信仰について深い洞察を持っているとは思えない岸田首相もその影響を強く受けてしまっている。だから、徳永氏は「情けないことに初動の対応を間違えてフラフラになった岸田文雄政権は全国弁連のいいなりである」と喝破する。
さらには「問題も責任も全部旧統一教会と安倍元首相におっかぶせて事態を収拾しようと押っ取り刀の体である。真相も見極めないまま自民党と旧統一教会との関係断絶を宣言し、河野太郎大臣は消費者庁の委員会に全国弁連メンバーを招き入れてしまった。解散請求にまっしぐらである」と憤る。
安倍氏に対する海外の評価は、歴代総理屈指の高さを示している。しかし、銃撃事件後、それを否定したい左派メディアを中心に教団批判を展開。教団とわずか“接点”を持っただけで、その業績と名誉は傷つけられ、異常なまでの国葬反対運動につながったが、もはや反論できない。
本来、自民党総裁である岸田首相は安倍氏の名誉を守る最前線に立つべきだった。逆に教団に対する反社のレッテル貼りと断絶宣言を行ったが、これは断絶決議した地方議員と同じで、保身から出た「初動対応」の間違いだったと言えるし、結果的に安倍氏の名誉を貶(おとし)めることになってしまった。一部には、保守派の安倍派の党内影響力を削(そ)ぐため、党内リベラル勢力が銃撃事件を利用したという見方さえある。
だから、「もとより旧統一教会を擁護するつもりはなかった」という徳永氏は、教団関連団体と「深い関係を築いてきた」市議たちが行った「断絶決議」が憲法違反であることを法廷で示すことで、「安倍元首相の暗殺で揺らいだ立憲主義の回復」とともに、「旧統一教会との繋がりを揶揄された安倍元首相の名誉挽回」を図ろうとしているのである。
すでに指摘したように、筆者は岸田首相の断絶宣言が結果的に教団と関係を持った安倍氏の名誉を傷つけることになったと受け止めてきた。だから、地方議会の断絶決議が違憲であることを法廷で明らかにすることは、信者の人権を守るだけでなく安倍氏の名誉回復にもなると、覚悟を決めて代理人を引き受けた徳永氏の動機が胸にストンと落ちたのである。
(森田 清策)



