少子化対策 国会ではカネ議論、どうも胡散臭い

人間が見栄を張り、人口は減少していった

少子化は高齢化と違って人類初体験でないはずだが、そのことが忘れ去られているようだ。2000年代初めに少子化が問われた際、経済学者の吉川洋氏(当時、東大教授)は古代ギリシャの歴史家ポリュビオスの言を紹介していた(日経06年1月4日付)。

ポリュビオスは紀元前2世紀半ばのギリシャで人口が減少した原因を戦争でも疫病でもないとし、「人口減少のわけは人間が見栄を張り、貪欲と怠慢に陥った結果、結婚を欲せず、結婚しても生まれた子供を育てようとせず、子供を裕福にして残し、また放縦に育てるために、せいぜい一人か二人きり育てぬことにあり、この弊害は知らぬ間に増大した」(村川堅太郎古代史論集Ⅰ)と記している。

これは今に通じる話ではないか。高所得者に児童手当を支給しても出産の動機にならず、「せいぜい一人か二人」の子供の教育費につぎ込まれるのが関の山だろう。古代ローマについては評論家の塩野七生さんがこう述べていた(日経05年1月1日付)。

ローマがポエニ戦争でカルタゴに勝った紀元前2世紀まで女性は10人ぐらい産むのは珍しくなかったが、帝国になると指導者層が子供をつくらなくなった。女性は地位や教育水準が高く、結婚しなかったり離婚したりしても不都合はほとんどなかったので、少子化現象が現れた、と。

そこで初代皇帝アウグストゥスは未婚の女性に「独身税」を課し、能力が同じなら子供の多い男性を優先的に公職に採用するといった、それこそ異次元の結婚・出産奨励策で少子化を克服した。こんな“骨太”の少子化対策は今の日本では聞いたことがない。