「ピークパワーの罠」
そうした意味でも、この予想外の中国人口減現象が示唆する黄信号には、チャイナリスクを考慮する上で重要なメッセージを含んでいる。
ただ同社説は「世界最速とされた日本をも上回る速さで高齢化が進む中、遅れている医療、介護、年金制度の整備も喫緊の課題だ」と説き「習政権は、軍拡や海洋進出といった強国路線に精力を注いできたが、国内の安定維持に重心を移す必要があるのではないか」と総括するだけだ。
この点では朝日も18日付社説「人口減の中国 安定成長への改革急げ」で、「3月には政府の新たな布陣が決まる。世界経済の安定にも資する成長軌道を描けるか。コロナ感染が収束すれば、いよいよ政権の力量が問われる」と書くだけで、厳しい局面に立たされている中国のカントリーリスク増大に伴う真のリスクへの言及が一言もない。
中国の人口減現象は構造的な側面が大きく、今後も方向転換することなく下降が継続する模様だ。既に10年前には生産年齢人口が減少傾向に転じており、急速に進行し始めている高齢化社会を支える大黒柱は細るばかりで歯止めがかからない。
真に懸念すべきは、劇的な成長でピークの峠を越えた大国が、坂を転げ落ちる恐怖にさらされると他国に攻撃的になるという「ピークパワーの罠」が存在することだ。外に敵をつくって求心力を高め、内政問題を封印するというのは独裁国家の常套(じょうとう)手段でもある。
この点に関しては、毎日の18日付社説「人口減に転じた中国 右肩上がりの終わり象徴」も、「習近平指導部にとって経済の安定成長は共産党統治を支える生命線と言える。社会構造の変化に柔軟に対応し、質の高い発展モデルに転換できるかが問われている」と書くだけだ。
戦時体制へ転換可能
安全保障の基本は、甘い希望的観測によって足払いされることがないよう、最悪のケースに備えることだ。その意味では、人口減へ向かう中国の歴史的岐路を安全保障を含めた視野で捉えることが大事だろう。
読売社説が書く「中国の人口が減るのは、毛沢東時代の1961年以来、61年ぶりだ」が「政府のかけ声一つで、出生数を増やしたり、減らしたりできると考える時代ではない」との時代認識は正しいが、昨秋の共産党大会で習近平一強体制を構築した中国は習主席のかけ声一つで、戦時体制への転換ができる人事となっている現実がある。
(池永達夫)



