山口氏訪韓報じる公明

公明党全国大会で手を取り合う山口那津男代表(中央)、斉藤鉄夫新幹事長(同右)ら =30日午後、東京都内のホテル
公明党全国大会で手を取り合う山口那津男代表(中央)、斉藤鉄夫新幹事長(同右)

人権重視の背景に「戦略」も

公明党の山口那津男代表は昨年12月29~31日の日程で韓国を訪問し、韓国の尹(ユン)錫悦(ソクニョル)大統領らと会談した。公明党機関紙「公明新聞」は今月4日付と8日付で今回の訪韓に触れている。

4日付1面で、29日に行われた山口氏と尹氏の会談を報じた記事によると、会談は「当初の予定を超えて50分ほどの友好的な語らいとなった」。また8日付に掲載された訪韓に関するインタビューで山口氏は、尹氏と「非常に友好的でかみ合った議論ができた」と振り返っている。

日韓関係の最大の懸案である徴用工問題については、山口氏が会談後、日本の記者団に語ったところによると、具体的なテーマとしての言及はなく、韓国大統領府側の説明でも尹氏は「韓日関係の懸案が早期に解決されるよう、ともに努力しよう」と述べるにとどめている。

その一方で話題に上がったのは北朝鮮による拉致問題だ。4日付の記事には、山口代表は「尹大統領がこれまで力強い支持を表明してきたことに謝意を述べ」、尹氏は「あらためて支持する考えを伝えた」とある。昨年5月11日に日韓議員連盟の超党派の国会議員が訪韓した際には「拉致問題は人権や普遍的価値観の問題であり、自分は日本の立場を支持する」と語り、その後の首脳会談などでも同様の立場を示してきた。

北朝鮮を「主敵」と表現する尹氏は、大統領就任当初から、北朝鮮の人権問題について重視する姿勢をとっている。就任式には韓国の拉致被害者家族が招かれており、日本で拉致被害者らを支援する「救う会」の西岡力会長はこれについて「今までになかったことだ」と語っている。

背景には、有事を念頭に置いた抑止戦略もあるようだ。今月11日付の聯合ニュースの報道によると、尹氏は「(人権問題は)北の挑発を抑止する強力な心理的要因になる」「北の人権侵害の実情をわが国の国民や海外に向けしっかりと知らせてこそ、南北間の有事の際に国際社会の支持を得ることができる」との考えを示した。

日本人拉致被害者の家族会などが求める被害者の即時一括帰国はいまだ実現していないどころか、進展の気配もなく手詰まりの感が否めない。韓国は日本以上に多くの被害者がいる当事国であり、北朝鮮の人権状況に力点を置く「事情」もある。日本政府は強く働き掛け、救出のため協力を強化すべきだ。他国に拉致された国民を何十年も取り戻せないままでいるというのは、悲しいと同時に屈辱的なことでもある。新たな糸口をつかめる可能性が少しでもあるなら取り組むしかないだろう。

(政治部 亀井 玲那)