チャイナウオッチャーの分析に「黄金の釘」打つ石平氏の産経コラム

民間企業の資産収奪

日本のように私有地が存在しない中国では、国家が国土を所有し鉱山などの資源や土地を独占している。地方政府はその国家の代理役であると同時にビジネスに関する許認可権も持っている。だから民間企業のビジネス展開には、必然的に党や政府関係者への贈賄は付いて回るものだ。

石氏は「『贈賄』に対する取り締まりが強化されると、一部外資企業を含むほとんどの民間企業がその標的にされる可能性がある」と書く。石氏が危惧するのは、贈賄側を血祭りに挙げ「贈賄によって得られた不当利益の追徴」に地方政府がこぞって走り出す懸念があることだ。

収賄側を罰する反腐敗闘争で、共産党や政府の上から下まで自派勢力で固める人事を断行する政治的メリットを享受した習近平政権は、今度は贈賄側に鞭(むち)を当てることで、民間企業や外資企業の資産収奪に動き、疲弊し始めた政権の資産を補填しようと考えている可能性がある。

今、中国は中央政府にしても地方政府にしても、不動産バブルの崩壊と経済不振によって深刻な財政難に呻吟している最中だ。石氏は「深刻な財政難に見舞われる各級地方政府は『贈賄摘発』を最強の武器にして民間企業、外資企業、富裕層に対して容赦のない収奪戦を展開していくに違いない」と結ぶ。

石氏が注目したのは昨年12月9日に中国最高人民検察院(最高検)が「収賄と贈賄と同列に取り締まれ」との各検察機関に出した発表文だった。その一節から中国の大きな潮流を読み解こうとしている。

石氏は本紙元旦付けインタビューでも「(台湾海峡波高しの状況が続く中)戦時になった場合、2010年に作られた国家総動員法が中国に進出した日系企業に適用される可能性は?」との質問に対し「必ずそれはやる。100%やる。戦争を遂行する上で日系企業に依存する必要性は全くなくても、それはやる。それが政治カードになるからだ。国家総動員法の適用で、戦争に協力しているという状況をつくり出して日系企業を戦争に巻き込み、日本社会の分断を図ることで、日本政府を窮地に追い込む」と述べている。

国際環境に言及なし

台湾有事が絵空事ではなくなっているだけでなく、外資を含めた民間企業の懐にも手を突っ込もうとしているかに見える中国のカントリーリスクは高まるばかりだ。

経済3団体(経団連・商工会議所・経済同友会)は5日、恒例の新年祝賀会を開催したが誰一人、厳しい国際環境の変化に言及することはなかった。そうしたシリアスな現実を無視してるかのような財界の現状認識には、危惧を覚える。

(池永達夫)