魔女狩り煽るワイドショー
「日本には『抗空気罪』という罪があり、これに反すると最も軽くて『村八分』刑に処せられる」「『空気』とはまことに大きな絶対権を持った妖怪である」と、名著『「空気」の研究』で日本人論を展開したのは評論家・山本七平だ。
日本人は「空気」「雰囲気」「風潮」で動く傾向が強い。しかも、宗教を迷信や非理性的なものとして個人の内心に押しとどめようとする人ほど、宗教2世の元信者らの、涙を交えた被害の訴えに感情的な反応を示し、被害者救済と、信仰の自由の重要性や民主主義の原則を峻別(しゅんべつ)して議論することを放棄してしまっていたのではないか。それを意図的に行い、教団バッシングを誘導した反宗教勢力やメディア(主に左派)がもてはやされるのも日本の病理であろう。
テレビ、新聞、週刊誌が教団バッシングを煽(あお)るのとは一線を画し、今年後半の熱狂を分析する論考をたびたび掲載してきた保守系月刊誌が存在することは光明である。その論考は最新号にも載っている。著述家・加藤文宏氏の「ワイドショーが善悪を決めていいのか」(『正論』2月号)だ。ブロガーの藤原かずえ氏の「メディアがつくる『魔女狩り社会』日本」(「Hanada」1月号)などもあり、バッシングの構造的な問題を読み解いている。
旧統一教会を追及したテレビのワイドショーの中でも、加藤氏は日本テレビ系列の「情報ライブ ミヤネ屋」は「特異だった」と指摘した。何が特異かと言えば、弁護士の紀藤正樹、ジャーナリストの有田芳生、鈴木エイトの3氏の名前を挙げて、「旧統一教会の言い分や疑惑の議員を紹介してコメンテーターが解説という名目の『糾弾会』を始めると、異論が挟まれることなく同質の意見だけが反響し合ってあらゆる方向から増幅されて返ってくる『エコーチェンバー現象』が発生」、視聴者は感情の渦に巻き込まれたからだ。
そして、「ミヤネ屋」を筆頭とするワイドショー、カルト問題の専門家、報道機関、政治家などが寄り集まって行われた旧統一教会追及は結局、「魔女狩り」だったのである。この現象を山本七平が指摘した“村八分刑”と言い換えることもできる。

一方、魔女狩り報道の典型例としてTBS「報道特集」を挙げた藤原氏は、岸田文雄首相の旧統一教会との関係「断絶」宣言は「憲法違反」と断じた。なぜなら、「公民権を持つ宗教団体の信者に対し、政策を訴える機会をもつことは、反省に値(あたい)する行為ではありません。逆に、政策を訴える機会をもつことを禁じるとすれば、それは信教を根拠に人間を差別する行為」だからだ、と正論を述べている。
そして、政権支持率の低迷に直面した岸田首相は「マスメディアが主導する群衆の暴走を恐れ、正論を封印して群衆に媚(こ)びたのです。この禁じ手の発動により、過去に麻生太郎総理・安倍晋三総理・菅義偉総理が頑(かたく)なに守ってきた『マスメディアの不合理な攻撃に屈しない』という自民党の政権運営の原則が瓦解(がかい)したと言えます」と述べている。



