群衆を操るメディア
この番組は昨年9月放送のアンコール放送。過去1年間でさえ、ロシアによるウクライナ侵攻、安倍晋三元首相の銃撃事件とそれ以降続く旧統一教会バッシング。国民の不安増大に歯止めがかからない今だからこそ、『群衆心理』を熟読し、自分も群衆の一人だと自覚する意義は大きい。
群衆心理を暴走させるのは、極端なまでの思考の単純化だ。そして暴走のスイッチとなるのが言葉。だから、ル・ボンは群衆を操るのは指導者だけでなくメディアだと喝破する。
「定期刊行物というものは、読者たちに意見をつくってやり、彼等に出来合いの文句をつぎこんで、自ら熟慮反省する労をはぶいてしまうのである」。現在、定期刊行物にはテレビやネットも含まれるが、物事を単純化させてしまう点では同じだ。
例えば、旧統一教会の献金問題。信仰を持たない人間は何千万円も「献金」する信仰を理解できない。そこで分かりやすく読み解くために使われるのが疑似科学的な言葉の「マインドコントロール」であり、献金を集める教団に向けて使われるのが概念曖昧な「反社」(反社会的集団)という俗語だ。テレビの情報番組はこれらの言葉を頻繁に口にする弁護士やジャーナリスト、政治家を出演させ、自発的な献金まで「取り締まれ」と声高に叫ぶ。ル・ボンは次のように述べている。
「道理も議論も、ある種の言葉やある種の標語に対しては抵抗することができないであろう。群衆の前で、心をこめてそれらを口にすると、たちまち人々の面はうやうやしくなり、頭をたれる」
革命先導した弁護士
フランス革命を先導したロベスピエールは次々政敵を粛清し、非キリスト教化を主導した揚げ句、最後は断頭台に登ったが、もともと彼は「自由・平等・博愛」の理想を追い求めた弁護士だった。現在、旧統一教会批判の先頭に立つのは「被害者救済」を掲げる反宗教的な左派弁護士や政治家たち。200年以上前、フランスで起きたことは示唆的である。
『群衆心理』はアドルフ・ヒトラーも愛読したという。この番組で今度、全体主義を考察する一冊を取り上げてもらいたい。
(森田清策)



