マッチポンプの会見
旧統一教会問題における首相の対応のまずさは、解釈変更だけでない。番組では触れなかったが、例えば、宗教法人法78条2項は、法令違反などが疑われる宗教団体に対して「質問させようとする場合」は「あらかじめ宗教法人審議会に諮問して」その意見を聞かなければならないとしている。しかし、首相は質問権の基準が定まる前に、その行使を表明してしまった。しかも、文科相が期限に言及したのだから、政権の焦りは危険水域に達している。
憲法が保障する「信教の自由」を侵害しかねない問題について、政治判断が先行する現状の危うさについては、宗教学者なら当然分かっていたはずだ。それでも、声明文を発表したのはやはり解散命令請求を「速やかに」行使させたかったからなのだろう。では、なぜ「慎重に」と、マッチポンプのような記者会見を行ったのか。
そこはキャスターの松原耕二が率直に聞いている。もし拙速に質問権を行使して解散に値する証拠が集められなかったら、「(裁判所から)NOと言われるかもしれない。これではお墨付きを与えてしまうかもしれないと危惧したということか」と。櫻井は「そうですね」と率直に認めた。そして裁判で「ひっくり返される可能性もある」から慎重に時間をかけろ、という。
まるで活動家の発言
「お墨付き」「ひっくり返される」というのも妙な言い草で、そこからうかがえるのは教団は「悪」で、それを解散させることが「善」という前提で議論していることだ。超世俗的視点から政治的な思惑や感情に流されやすいメディアや国民に物申す役割を持つ宗教学者が質問権行使の結果を待たず、すでに結論を出した上でメディアで発言するなら、それはもう学者の域を超え活動家ではないか。旧統一教会問題は日本人の宗教観、政治家そして学者のレベルもあぶり出している。(敬称略)
(森田清策)



