核への野心むき出し
ロシアは2月下旬のウクライナ侵攻時から核の威嚇を使い、西側諸国のウクライナ支援を牽制(けんせい)した。さらにロシア軍は原発施設に押し入り、侵攻の軍事拠点とした。
侵略されたウクライナが反撃として原発施設に砲弾を撃ち込めば、第2のチェルノブイリにならないとも限らない危険を伴う。そのリスクを軍事基地を守るバリアとして利用し、ウクライナ軍の反撃をかわしつつ軍事侵攻を進めているのがロシア軍だ。これは「軍事行動は軍事目標のみを対象とする」と定めたジュネーブ協定第48条に明らかに違反し、戦争犯罪行為に他ならない。
そしてプーチン露大統領は9月下旬、ウクライナへ軍事支援する欧米諸国を激しく批判し、「ロシア領土への脅威が生じた場合、あらゆる手段を行使する。これは、脅しではない。核兵器でわれわれを脅迫するものは、風向きが逆になる可能性があることを知るべきだ」と述べ、核使用も辞さない構えを示し、欧米諸国を威嚇した。
一方、中国は核弾頭数の数こそ米露に比べれば一桁違うものの、急速な軍拡路線で2030年までには1000基もの核弾頭が整備される計画とされる。トランプ前米政権は米露に限った核軍縮条約は時代遅れだとして中国を含む新しい枠組みを探ったが、中国はことごとくこうした提案をはねつけ核大国に向けた唯我独尊の道を突き進んでいる。中国は核大国である米露同士を核軍縮競争に追い込むことで、漁夫の利を得ようとしている。
こうした核戦力に対する野心をむき出しにしている中露と、法に基づく国際秩序を求める米国とを同列に扱う朝日の社説は、色眼鏡で国際情勢を見ている恣意(しい)的論説と言わざるを得ない。
軍縮以外に言及なし
同社説では一応、「米ロ間のような核軍縮交渉の枠外で、核戦力を急速に強化する中国の脅威は、喫緊に対処すべき課題」だとしながら、それ以上の言及がない。国際情勢を危うい世界に落とし込みかねないロシアのウクライナ侵略と中国の野心を封印することこそが、世界の安全保障にとってまず求められるものであって、中露に米国を並立させて論じるのは難がある。
朝日は「今年1月に『核戦争に勝者はいない』とする共同声明を出した米ロ中英仏の5大保有国は、まず自ら核軍縮に動いてもらいたい」と「隗(かい)より始めよ」的な主張をしているものの、これは同社説で「俯瞰(ふかん)的な平和構築の戦略を練る必要がある」と総括していながら全く中露の現実を俯瞰していない盲目の社論だ。
本気で「核無き世界」を目指すなら、核保有国全体の軍縮だけでなく、プルトニウムや高濃縮ウランなどの核物質と核兵器製造技術がテロリストの手に渡らない手だてを考えないといけない。
(池永達夫)



