情報が錯綜して混乱も

9月27日、日本武道館で執り行われた安倍晋三元首相の国葬儀には、国内外から約4200人が参列した。自民党機関紙「自由民主」(10・4)では、1面で国葬の様子を伝えた。
「安倍晋三元総理の国葬儀、厳粛に挙行/国づくりの理念受け継ぐ」との見出しで、式典の流れのほか、衆院議員バッジと北朝鮮による拉致被害者救出のシンボル「ブルーリボン」バッジが並んだ式壇や、会場周辺や党本部に設置した献花台の様子などを紹介。「わが国の内政・外交に大きな功績を残したリーダーとの突然の別れを静かに見送った」と綴(つづ)った。
安倍氏の銃撃事件で浮き彫りになったのが警護体制の不備だ。警視庁は、多くの要人が参列する国葬に当たって、2万人規模の警備体制を敷いて臨んだ。幸い大きな事件・事故は起こらず、式典は厳かに進み、同紙が書くように参列者は安倍氏を静かに弔うことができた。
ただ、岸田文雄首相が7月14日に国葬の実施を表明してから当日までの日々は到底「静か」とは言えないものだった。実施を決めるまでのプロセスに国会での説明や議論が含まれなかったことに加え、判断基準や法的根拠が曖昧との批判を浴びた。さらに、銃撃事件の容疑者が恨みを抱いていると報じられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と絡めて批判する論調もあり、それらに押されるように各種世論調査でも国葬に反対と考える人の割合が増えていった。
政治家の功績についてさまざまな評価があるのは仕方がないことで、それに起因する反対論争が全くない状況は考えづらい。だが、決定プロセスをめぐる議論が巻き起こる事態は避けられたはずであり、今後国葬儀を行うことがあるなら、静かに準備を進め故人を送り出せる環境となるよう、国会で何らかのルール作りを行うべきだ。
衆院議院運営委員会は今月20日の理事会で、安倍氏の国葬を検証するための協議会の設置を決めた。トップに就く自民党の山口俊一委員長によると、協議会はあくまでも検証が目的で、今後の国葬に関する法整備は対象にならない。ただ、岸田首相は5日の衆院本会議で、首相経験者の国葬について「一定のルールを設けることを目指す」と表明している。既に幾つかの野党は国葬の手続きに関する法案を準備しており、議論を見守りたい。
国葬をめぐる論議が過熱する中で、情報が錯綜(さくそう)し混乱を生んだことも記憶に新しい。発信者が処分を受けるなどした例を挙げると、菅義偉前首相の弔辞に関するテレビ朝日の玉川徹氏の発言と、国葬に反対するSNS投稿に関する三重県議のツイッターでの発言がある。
菅氏が友人代表として読んだ弔辞は、安倍氏と過ごした日々を振り返り、山縣有朋が詠んだ句を引用して締めくくったもので、広く感動を呼んだ。玉川氏は、番組出演者がこれについて「よかった」とコメントしたのに対し、「政治的意図がにおわないように制作者としては考えますよ。当然、電通が入ってますからね」と発言。翌日、誤りだったと謝罪し10日間の謹慎処分となった。
後者では、三重県議の小林貴虎氏がツイッターに「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸から」と投稿、物議を醸した。小林氏は投稿を撤回し、19日には記者団に、今後はツイッターの使用をやめると語っている。このほかにも、SNS上では国葬に反対するデモの参加人数について、「警察発表」などとして誤った数字が拡散した。実際には警視庁から参加人数の発表はされていない。
今回に限ったことではないが、誤った情報に基づく批判はさらなる対立・分断を生むことも多い。情報の真偽を見極めるのは大変かもしれないが、情報過多とも言われる現代社会において必要不可欠なことだ。
(政治部 亀井 玲那)



