拒否権縛る手だてを
各新聞社も社論を張って、国連改革賛同オピニオンを出したが、どれも具体策に欠ける「落石注意」標識ばかりだ。
産経の社説「主張」は24日付「安保理改革 侵略許さぬ陣容をつくれ」で、「一般討論演説では、バイデン米大統領も、ロシアの侵略を『国連憲章違反』と非難し、国連改革の必要性を強調した」とし、「来年から2年任期の非常任理事国となる日本と協力し、改革を主導してほしい」と改革応援のエールを送るだけ。
22日付読売社説「首相国連演説 安保理の機能回復に努めよ」も、「来年から非常任理事国となる日本は、改革の具体案作りに知恵を絞らねばならない」と踏み込みが足りない。
24日付日経社説「国連改革の進展へ首相は中心的役割を」に至っては、「国連総会は6月、安保理で拒否権を使った国がその理由を説明する会合を初めて開いた」とし「こうした改善策を積み重ねるのも国連の機能強化には欠かせない」と実に生ぬるい。
要は、加盟国に、いかなる国に対しても「武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならない」と定めた国連憲章2条4項に違反した場合、安保理常任理事国といえども拒否権を縛る手だてがなければならない。
「夢遊病者」化を防げ
1914年6月28日、オーストリア皇太子がサラエボで暗殺された時、誰もこれが世界大戦にまで発展するとは思っていなかった。
だがバルカン半島の一角で鳴り響いた銃弾が、燎原(りょうげん)の火のように欧州を飲み込み、3帝国が滅び2000万の兵士と市民の命が奪われる史上初の総力戦、第1世界大戦が起きた。この経緯はクリストファー・クラーク著『夢遊病者たち 第一次世界大戦はいかにして始まったか』に詳しい。
安倍晋三元首相暗殺の後、世界が「夢遊病者」となって第3次世界大戦の道に迷い込まぬためには、国連改革という気付け薬が必要だ。
国際連盟が短命に終わったのは、全会一致原則に縛られていたからだ。一国でも反対すれば重要案件でも何も決められず、迅速で有効な対応が取れなかった。拒否権をてこに大国エゴを押し通し国連を機能不全に陥れている現状に手をこまねいたままでは、国際連合は第2の国際連盟になってしまう。
(池永達夫)



