
2桁減った被害総額
よくもこんなに数字が変わるものだと呆(あき)れるほかない。「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)が明らかにしている世界平和統一家庭連合(旧統一教会、以下教団)による「被害実態」についてだ。教団は霊感商法や献金で多数の被害を出している「反社会的団体」だから、自民党は手を切れ、一切関わるな、宗教法人を解散させよ等々、メディアによる教団悪者の根拠とされている「被害実態」である。
全国弁連が7月12日に行った記者会見では「金銭被害は昨年までの約35年間で総額1237億円を超す」(朝日22日付社説)とし、紀藤正樹弁護士が26日に行った日本共産党の会合での報告では「相談件数は3万4537件」で、消費者相談窓口が機能していれば、さらに増え、被害者は「(家族も含め)100万人以上」となり、1兆円超えの被害が出ているとしていた(「しんぶん赤旗」27日付電子版)。
ところが、全国弁連が9月16日に都内で開いた集会では、まったく違った報告をしている。それを朝日17日付は「教団の霊感商法が刑事事件化した2009年の『コンプライアンス宣言』以降にも献金などでの被害があったと訴えた相談は64件。被害総額は、コンプラ宣言以前の被害額を含めて約22億7千万円だった。このうち、入信の契機が正体隠しによるものは少なくとも57件で、被害総額は約21億2千万円」と報じている。
1237億円としていた被害総額は2桁も下がって22億7千万円に萎(しぼ)んでいる。09年以降の相談は64件で、3万件以上とは雲泥の差だ。朝日には「教団に関する相談は、安倍晋三元首相への銃撃事件後の7月9日から9月14日までにメールや電話で計214件寄せられ、今年に入ってから事件までの数件から急増している」とある。
何が何でも教団潰し
つまり、事件前の半年間では相談は数件しかなかったのだ。毎日17日付では事件後の相談件数は461件としているが、どちらにしても1日数件程度だ。当初の発表は反教団騒動を起こす偽情報だったということか。
野党が12日に開いた教団をめぐるヒアリングで宗教法人を所管する文化庁は「旧統一教会の役員などが、刑法などに反して刑罰を受けたという事案は承知していない」とし、解散命令請求を行う対象ではないとの考えを示している(朝日13日付)。それにもかかわらず全国弁連は16日の集会で、宗教団体であることや勧誘目的を隠して信者を獲得する「正体隠し伝道」が教団の最大の問題だとして解散命令の請求を行うべきだと息巻いている(読売17日付)。
全国弁連の主張を咀嚼(そしゃく)すると、最初は「霊感商法」、それが現在は大幅に減少していると見破られると「献金」、それも違法性が問えないとなると、次には「正体隠し伝道」と変遷した。主張をころころ変えて何が何でも教団潰(つぶ)しなのだろう。
共産党の「正体隠し」
「正体隠し」と言うので共産党が思い浮かんだ。同党の「正体隠しオルグ」はよく知られた話だ。青年には「民主青年同盟」(民青)、女性には「新日本婦人の会」(新婦人)、商工業者には「民主商工会」(民商)、医療者には「日本民主医療機関連合会」(民医連)、合唱好きには「日本のうたごえ全国協議会」、登山家には「日本勤労者山岳連盟」、さらに弁護士には「青年法律家協会」(青法協)や「自由法曹団」と枚挙に暇(いとま)がない。大半の会員はこれら組織が共産党と知らずに勧誘され、会員になったことだろう。創価学会にもその種の団体が多くある。だからといって非難されない。
もはや全国弁連の主張は支離滅裂だ。そのお先棒を担ぎ教団批判キャンペーンに明け暮れる朝日を筆頭とするメディアは「真実の追究」(新聞倫理綱領)を自ら放棄している。折しも日朝首脳会談から20年を経たが、北朝鮮による拉致被害者報道では「メディアは死んでいた」(阿部雅美・産経元記者)。教団報道もそれと同様の体たらくである。 (増 記代司)



