原発政策の方針転換を産業基盤という大きな視点で論じた読売

技術者流出に懸念も

一方、日経は24日付社説「原発新増設は安全重視で着実に進めよ」で、「現実的な判断であり、国民の理解を得ながら着実に進めてほしい」とポジティブな受け止め方だ。理由は「温暖化ガス削減とエネルギー安定供給を両立させるうえで、原発の役割は無視できない」との判断がある。

産経は25日付主張「原発新増設の容認 方針の大転換を歓迎する」で、「政府は電力の安定供給のため、今後も原発活用を着実に進めてもらいたい」ともろ手を挙げて歓迎した。

読売は27日付社説「原発の再稼働 電力危機の克服に不可欠だ」で、電力の需給逼迫(ひっぱく)が続く中、安定供給できる「原子力発電所の重要性が増している」とし、「国は原発の活用に及び腰な姿勢から脱して、再稼働や新増設に正面から取り組むべきだ」と主張した。

さらに読売は「再稼働の停滞で、日本の原子力産業は弱体化している。事業から撤退する企業が相次ぎ、国産部品の供給網が維持できなくなる恐れがある。学生や研究者の層が薄くなれば、技術継承も危うい」と指摘した上で「新増設を推進し、産業の衰退に歯止めをかける必要がある」と日本経済を支える産業基盤という大きな視点から論じている点が目を引く。

現在、わが国で原発に関する専門家というのは約2万人存在し、電力の安定供給を第一線で支えている。発電所の設計や運転・保守、燃料・炉心・放射線管理等の業務などに従事するプロフェッショナルだ。

朝日が目指すのは「原発に頼らない社会」の建設だ。だが、そこに一旦(いったん)、国家が舵(かじ)を切れば技術者流出が起きると同時に、物理学や電機電子工学といった原発に必要な基礎学問を専攻した学士・修士・博士といった人材が原発関連職に就くこともなくなり、未来永劫(えいごう)、原子力産業は根絶やしになる。その危機感を訴えた読売の社説は、傾聴に値する。

島国の「脱原発」困難

何よりわが国は四方を海に囲まれた島国だ。「脱原発」宣言国家ドイツは、不安定な太陽光発電や風力発電に依存し電力不足に陥っても、原発増設を国家戦略としている陸続きのフランスから余剰電力を配電してもらうことが可能だ。だが、島国日本はこれができない。

産業の土台であるエネルギー政策の舵を切り間違えれば、とんでもないことが起きかねないのだ。

(池永達夫)