サウジアラビアの未来都市構想は「ディストピア」とこき下ろす英紙

長さ170キロの鏡の壁

発表によるとLINEは、長さ170キロ、高さ500メートル、幅200メートルの直線の壁状の建造物。表面は、鏡面のようになっていて、外の世界を映しだすように設計されているという。砂漠の中に建設される建物の中に900万人が居住することが考えられている。エネルギーはすべて再生エネルギーで賄われ、自動車はなく、リニアモーターカーに乗れば端から端まで20分で行け、生活に必要なものは徒歩5分圏内に収めるという。周囲は砂漠だが、建物内には緑に触れられる所もある。

FTはLINE構想の発表を受けて、「完全に密封された高さ500メートルの鏡の壁。巨大なカーボンフットプリント(炭素の足跡)が必要で、未来都市には程遠い」と手厳しい。

NEOMは、ムハンマド皇太子が、経済の原油依存脱却を目指す「ビジョン2030」の一環として出した都市構想で、経済、インフラ、観光など総合的な開発により、サウジの国際的な地位向上を目指すもの。LINEのほかにも、空飛ぶエレベーター、浮遊する炭素ゼロの港などアイデアは斬新だ。

だがNEOMは、構想発表から5年がたち、米ブルームバーグ通信によると「さまざまな困難に悩まされている」という。さらに「デフォルトの危機にある中国恒大集団のサウジアラビア版」になりかねないと頓挫の可能性すら指摘している。

FTは、「人類は、地球を住めない場所にするのに忙しく、超富裕層は宇宙の植民地化を夢見ている。(それに比べれば)NEOMは現実的」と皮肉る。

環境への影響懸念も

その上で、「環境問題への解決を主張する一方で、サウジの原油過剰供給による無限で、ただのエネルギーを前提とし、その影響を無視している」と環境への影響を懸念する。また、「これは誰のためのものなのだろう」と素朴な疑問を突き付けている。

「崩壊し、砂漠の砂へと返っていく街、太陽光で飛ぶドローンが廃虚をさまよう」(FT)。そんな近未来的ディストピアが目に浮かぶ。

(本田隆文)