
グローバル経済終焉
ロシアによるウクライナ侵攻は、あらゆる面で世界に衝撃を与えた。新型コロナウイルスによる世界的感染拡大も人類に大きな不安をもたらしたが、今回の侵攻によってこれまでの世界秩序がきしみ始めたことは間違いない。
そうした中で経済誌は視界不良の状況だからこそ、時代の流れを読み解くために歴史を学べと提唱する。週刊ダイヤモンド(6月18日号)は「ウクライナの後が分かる歴史入門 世界史 日本史 戦争・民族」と見出しを付け、さまざまな国家盛衰の過程を紹介。また、エコノミスト(6月21日号)は、「歴史と経済で解くドル没落」と題して基軸通貨としてのドルの限界を論じている。
ダイヤモンドは第一に、現在を第1次世界大戦前夜になぞらえる。「グローバル経済は2度目の終焉(しゅうえん)迎える」と題した記事では、1度目の終焉期を20世紀初頭とし、「(第1次世界大戦前夜の)この時期、…人と物が盛んに移動した。電信によって情報が短時間で流通するようにもなった。こうして世界は急速に一体化していった」と綴(つづ)る。
その上で「だが世界が一つにつながる中で、国家間の衝突や合従連衡、民族運動が次々に起こり、国際情勢は不安定さを増していった。…バルカン諸国間の民族主義的な領土紛争で、これが第1次世界大戦への導火線となった」と分析する。問題なのは第1次大戦が結局4年3カ月の長期の戦争になり、第2次大戦への火種を残し、世界経済が分断されていったことである。
さらに同誌は第二に、グローバル化の時期を1990年代以降と位置付ける。「東西冷戦の終結と中国の自由貿易への参加が原動力となった。現在のグローバル化の水準は第1次大戦前よりもはるかに高い」としながらも「この水準が未来にわたって維持されるとは断言できない」としてグローバル化の終焉を予測する。
その根拠としてダニ・ロドリック米ハーバード大学教授が提唱する「世界経済の政治的トリレンマ」、いわゆるグローバル化と国家主権、民主主義の三つは同時に追求できないという考え方を挙げた。「国家主権を懸けた武力侵攻が起こり、ポピュリズムという爛熟(らんじゅく)した民主主義がはびこる今」、グローバル経済は終焉を迎え、世界経済は再び分断の事態に陥りかねない状況にあるというのだ。
金融帝国崩壊の教訓
一方、エコノミストは古代ギリシャの都市国家(ポリス)アテネから教訓を得ようとしている。紀元前500年、ペルシャ帝国がギリシャに侵攻したがアテネを中心としたポリスの同盟軍が勝利を収める。同盟を組むポリスの拠出金の金庫がデロス島に設置されたことからデロス同盟と呼ばれた。
問題は、これらの拠出金が実質的にアテネへの貢納金となり、アテネが自由に使い自らの海軍を増強し、他の同盟国を軍事力をもって属国のように扱っていったことである。こうしたアテネの横暴に他の多くのポリスが不満を募らせ、徐々に離反していった。結局、アテネは紀元前404年にスパルタとペルシャの同盟軍に敗れ降伏する。
エコノミストは、古代のアテネを現在の米国になぞらえ「(基軸通貨のドルをもって)金融帝国としての威を借り、(同盟国に対して)金融圧力を加えていくならば米国はアテネのように同盟国の離反を招き自らの金融帝国は崩壊してしまうだろう」(田代秀敏・シグマ・キャピタル代表取締役)と述べ、同盟国への配慮を常に怠らぬよう警鐘を鳴らす。
要注意の“中露同盟”
西側諸国が経済制裁を科しても、ロシアは逆に豊富な資源を武器に非友好国を対象に揺さぶりを掛けている。また、この機に乗じて覇権をさらに広げようと中国が、アジア・アフリカに通貨、金融面で触手を伸ばしている。米ソ冷戦の終結で世界経済のイデオロギー論争は決着したと思われているが、今回のロシアの侵攻で東西冷戦の火種は残されていることが明確となった。その火種が中露同盟のような形で大きくならないよう注視することが必要だ。
(湯朝 肇)



