4700万人リスク
1983年台風10号と2019年台風19号の千曲川堤防決壊を地元で経験した長野市長沼地区住民自治協議会元会長の西澤清文氏は、83年の時と比べて3年前の台風19号について「明らかに違うのは降り方が違う。水位上昇速度があまりにも速い。過去の経験値が通用しなくなっている」と語った。
実感がこもる証言だ。83年9月の台風10号で戦後初めて千曲川の本川堤防が決壊し、長野県の治水対策は強化されたが、持ち堪えなかった。
番組はハザードマップについて、国が1000年に1度の大雨を想定するように都道府県に指示して作らせたとして、これらを基にNHKが全国ハザードマップを作成し、人口を分析したところによると、浸水リスク地域で暮らす人口は4700万人いると警鐘を鳴らした。
しかも、「ここ20年間でリスク想定のないところの人口は25万人減って、リスク想定があるところの人口は177・5万人も増えている」ことを、明治大学教授の野澤千絵氏は指摘した。リスク回避は必要であり、堤防の強化など治水対策も必要であろう。
が、19年の台風19号の水害調査では、東京に至る荒川流域の堤防が決壊する恐れがあったと検証されている。人口密集地で数百万人が被災する洪水を回避するには、治水強化に期待したい。なにせハザードマップを見れば市・区がまるごと水没の浸水リスク地域だ。百万単位の避難計画はどうするのか。番組では広域避難に触れたものの踏み込んだ議論にはならなかった。
参院選で政策論議を
かつて野党が「コンクリートから人へ」と訴えて政権交代し、“事業仕分け”でダムやスーパー堤防は必要なのかと疑念を呈したことがあるが、裏を返せばここ10年余りで予想外な気象変化が起きたのだ。目下の参院選では、物価高騰、安全保障、感染症対策に比べ災害対策はやや目立たないが、しっかり政策論議してほしい。
(窪田伸雄)



