「処理水」海洋放出、反原発リベラル紙失速し保守紙圧勝も油断は禁物

社論を示せぬ左派紙

当然、保守紙は「審査合格」を評価した。本紙は社会面トップ、読売は3面総合面で「海へ処理水『安全』 地元の理解焦点」と報じ(19日付)、そろって社説を掲げた。産経「妖怪『風評』の根を絶とう」(20日付)、読売「安全性周知へ情報発信強めよ」、本紙「風評被害への懸念払拭急げ」(いずれも21日付)と、安全性を強調し風評対策を促している。

これに対して朝日は18日付夕刊では社会面下段の「トピックス」で海洋放出を話の種(トピックス)扱いをしたが、19日付では一転して社会面で大きく扱い「着工 地元の了解が焦点」「漁業者 反対の声根強く」と報じた。記事は客観的報道にとどめており、朝日福島版もかつてのような「活動家紙面」は作らず、沈黙し様変わりしている。

一方、毎日は19日付1面肩と社会面で扱い、朝日よりも反対論を色濃く出している。とはいえ、朝日、毎日、東京のいずれも社説で論じておらず、海洋放出に対する社の見解を明確にできないでいる(21日付現在)。昨年のような居丈高な報道姿勢は後退したとみてよい。これもウクライナ戦争の影響だろうか。

報道不十分な保守紙

ただ保守紙にも課題は残る。風評対策を強調しているのに、肝心のツボを押さえ忘れている。来日している国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長の動向をさほど伝えていないことだ。

IAEAは日本政府の依頼を受け海洋放出の安全性の検証を進めており、同事務局長は今回、福島第1原発を視察した。地元紙・福島民友によれば(20日付)、グロッシ事務局長は2020年2月以来、2度目の訪問で、ALPSや1~4号機を望める高台から廃炉状況などを視察し、東電の担当者から現状の説明を受け「期待以上の進捗(しんちょく)で感銘を受けた。廃炉や放出に向けたインフラが整ってきている」と話している。

これを全国紙はほとんど報じていない。IAEAの動向は風評を防ぐ上で欠かせないだけに物足りない。また風評には「丁寧に説明する」(政府)だけでなく反撃することも重要だ。産経の言う「妖怪」は影を潜めているかもしれない。油断は禁物である。

(増 記代司)