【社説】米比首脳会談 南シナ海の公海の自由を守れ

米国のバイデン大統領(右)とフィリピンのマルコス大統領UPI

米国のバイデン大統領とフィリピンのマルコス大統領が米ホワイトハウスで首脳会談を行い、中国の南シナ海進出を念頭に新たな防衛協力の指針をまとめた。中国は一方的に南シナ海の領有を主張し、武装した海警局公船の動きを活発化させており、不測の事態を招きかねない。フィリピンの防衛を強化する米国の支援を歓迎したい。

日本含む協力体制整備へ

米国はこれまで「航行の自由」作戦を同盟国と共に定期的に行っており、首脳会談でバイデン氏は「南シナ海やアジア太平洋での緊張の高まりに対応」するため、「フィリピンの防衛に対するわれわれの責務は揺るがない」と強調した。米比相互防衛条約で結ばれた両国の軍事的結束はアジア地域の安定に資するものだ。

中国の力による現状変更を伴う海洋進出は看過し難い状況になっている。東シナ海、台湾海峡を巡っては台湾に対して露骨に武力行使に言及する恫喝(どうかつ)を行っている。南シナ海に対してもフィリピンとの係争地であるスプラトリー諸島の実効支配を強めるほか、環礁に人工島を築いて軍事設備を建設するなど著しい国際法違反をしている。

中国は南シナ海の領有を主張しているが、根拠とする「九段線」は無効だ。「九段線」で南シナ海を囲んだ海域を領海とする中国の主張についてハーグの仲裁裁判所は、国際法における法的根拠を持たないとする判決を下している。この判決を「紙切れ」と呼ぶ中国は法秩序への反逆者だ。

フィリピンではマルコス政権がドゥテルテ前政権に代わり、改めて中国に対する警戒を強めている。前政権では麻薬犯罪組織の取り締まりが過剰となり、人権侵害を伴う“麻薬戦争”が国際非難を浴びて米国との関係も冷却化した一方で、経済的な実利を求めて親中的な外交姿勢を取った。

マルコス氏は昨年の大統領就任後、対中傾斜を修正している。今年に入ると南シナ海で中国海警局の公船がフィリピンの沿岸警備隊巡視船に向けて軍用レーザーを照射する危険な行為に出るなど、フィリピンを見下したかのような露骨な挑発を行っている。

公海上での軍用レーザー照射は非常に悪質であり、しかも一触即発の武力行使の事態につながりかねないものだ。国力、軍事力の差に高をくくった中国のフィリピンに対する嫌がらせを放置していては、取り返しのつかない暴走になりかねない。

先月下旬にはスプラトリー諸島をパトロールするフィリピンの巡視船を、中国の公船が追い回し危険な行為に及ぶ妨害を1週間も続けた。米比首脳の共同声明で米国がフィリピンの防衛義務を明記し、巡視船や航空機の供与を決め、日本を加えた3カ国の協力体制を整えるとしたのは意義深いことだ。

攻撃防ぐ取り組みを評価

またマルコス政権は、米国との相互防衛条約に基づき米軍がフィリピン国内で使用できる軍事拠点を5カ所から4カ所新たに増やして9カ所とした。平和を守るには力が必要であり、中国の脅威が増す中で未然に攻撃を防ぐ取り組みを評価したい。