【社説】3月日銀短観 消費回復へ賃上げの波及を

原材料価格が高止まりする中、海外経済の減速が追い打ちとなり、企業心理の悪化に歯止めが掛からない――3月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)が示した大企業製造業の現況である。

景況感の反転には消費の回復が欠かせない。インフレ率以上の賃上げ実現へ、30年ぶりの高水準となっている賃上げの広がりと継続を望みたい。

コスト高で景況感悪化

コロナ禍でも好調さを維持してきた大企業製造業の景況は、3月短観では業況判断指数(DI)が5四半期連続の悪化でプラス1とマイナス圏目前にまで落ち込んだ。16業種のうち12業種で景況感が悪化した。

長引く原材料価格高騰に伴うコスト高が企業業績の足を引っ張り、企業心理の悪化につながった。消費者の節約志向は強まり、欧米の金融引き締めによる海外景気の減速で輸出は鈍化。半導体などIT関連の需要が低迷した。加えて、欧米発の金融不安により先行きの不透明感も深まりかねない状況である。

一方、大企業非製造業は、コロナ禍に伴う行動制限がなくなって経済活動の正常化が進んだことや、政府による観光支援策もあり、12業種中6業種で改善した。ただ、コスト増や人手不足から宿泊・飲食サービスは横ばい。原材料高などの負担は製造業同様に大きく、先行きは5ポイント悪化を見込む。

今回の短観では、輸入価格上昇が一服したことを反映してか、仕入れ価格判断DI(価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」の割合を引いた指数)が大企業製造業、同非製造業とも11四半期ぶりに下落、先行きも下落を見込む。

販売価格判断DIも大企業製造業は下落に転じ、同非製造業は11四半期連続上昇でもう少し価格転嫁が必要な状況が続きそうだが、先行きは製造業と同様、下落を見込む。コスト高の足かせは徐々に取れそうである。

 もっとも、当面は価格転嫁が、消費者から見れば値上げが続く。帝国データバンクの調査(3月31日まとめ)によれば、4月の食品値上げは5106品目。今年の値上げも、近く2万品目を突破する見通しという。

消費者物価は1月の前年同月比4・2%上昇から、2月は3・1%上昇と13カ月ぶりに伸び率が鈍化。企業物価も1月の9・5%上昇から2月は8・2%上昇に下がるなど、ここでも物価高のピークアウト感が出ているが、これだけ値上げ品目が多く、値上げのニュースが毎日のように続くと、やはり消費者の買い控え志向は弱まりにくい。

内需主導の経済築きたい

これを打破するのは、インフレ率以上に賃金が上がっているという実感である。連合が発表した2023年春闘の中間集計は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率が3・70%と30年ぶりの高水準となり、消費者物価の伸び率を上回った。いい傾向である。中小企業組合の本格的な結果が出るのはこれからだが、賃上げの勢いは大手から中小に波及しつつある。この流れを確実また継続的にし、底堅い設備投資意欲と合わせ内需主導の経済を築きたい。