【社説】英TPP加入へ 高水準の自由経済圏拡大を

環太平洋連携協定(TPP)に参加する日本など11カ国は、オンライン形式で閣僚会合を開き、英国の加入を認めることで合意した。7月にニュージーランドで開かれる予定の閣僚級会合で協定に署名し、各国の手続きを経て正式加入となる。欧州主要国である英国とインド太平洋地域との経済関係が強化される意義は大きい。TPPを主導する日本は、高水準の貿易・投資ルールに基づく自由経済圏のさらなる拡大に努めるべきだ。

発足後では初の参加

新規加入は2018年12月の発足時のメンバー以外では初めてとなる。英国の加入でTPP参加国のGDP(国内総生産)の合計は世界全体の12%(11・8兆㌦)から15%(15兆㌦)に拡大し、欧州連合(EU)の17兆㌦に迫る。

TPPをめぐる構図

英国はEU離脱後、21年2月に加入を申請。自由貿易協定(FTA)の一つであるTPPは、農産品や工業品の関税撤廃に加え、知的財産権保護など厳格な自由貿易・経済活動のルールを定めた協定だ。参加国が厳しい姿勢で交渉に臨んだ結果、英国の関税撤廃率は90%台後半に達し、加入への道が開けた。

英国のスナク首相は声明で「TPP参加は、EU離脱で得た自由がもたらす真の経済的利益を示すものだ」と強調した。TPPの経済圏は太平洋を中心とした地域から欧州にも広がることになる。英国との経済関係が強化されれば、英国がインド太平洋地域で安全保障面での役割を果たすことにも通じる。加入合意を歓迎したい。

TPP拡大の焦点は今後、加入を21年9月に申請した中国と台湾への対応に移る。ただ、英国並みの厳しい交渉を受け入れなければ加入は難しい。

中国は国有企業を優遇していることなどからTPPルールとは相いれないのが現状だ。貿易相手国に対する経済的な威圧を強めていることも、TPPの目指す自由経済からは程遠い。「一つの中国」を掲げる中国は、台湾の参加にも「断固反対」を表明している。

加入交渉の開始は、参加国による全会一致の決定が原則となる。参加国の中には中国の加入を支持する国もあるとされるが、日本は慎重な立場を取らなければならない。

そもそもTPPは、影響力を拡大する中国を牽制することが狙いだった。現在は離脱している米国は、10年のTPP交渉開始以来、アジア太平洋地域に米国主導のルールを整備することを目指していた。

しかしトランプ前大統領は17年1月、TPPを「永久に離脱する」と宣言。バイデン大統領も国内雇用を重視する内向き志向から抜け出せず、TPP復帰に慎重な姿勢を崩していない。

 米国に復帰を働き掛けよ

米国が提唱し、日米など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、経済安全保障の観点から「脱中国依存」を図る枠組みだ。ただ、TPPのように参加国が互いに関税を引き下げる市場開放には踏み込まない。中国に対抗するには、やはり米国のTPP復帰が望ましい。英国の加入合意を機に、日本は米国への働き掛けを強めるべきだ。