
クーデターで国軍が実権を握ったミャンマーで、民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が解散に追い込まれた。民主化に逆行する動きは遺憾だ。
スーチー氏政党が解散
国軍は1月に発表した新たな法律で、既存の党に政党としての再登録を義務付けた。ミャンマーの国営放送によると、NLDを含む計40の党が期限までに再登録しなかったため、解散させられた。国軍系など計50の党は再登録した。
法律では政党の条件として、国内で500を超える選挙区で候補者を立候補させることなどを定めている。スーチー氏や幹部が拘束され、党員の多くが国外に逃れているNLDは再登録ができない状態となっていた。これで解散させることは極めて不当である。
2020年11月に行われた総選挙では、NLDが上下両院全議席(定数664)のうち過半数の396議席を獲得し圧勝。国軍は21年2月、この選挙で不正があったと主張してクーデターを強行した。
ミャンマーの憲法では、クーデター時に国軍が発令した非常事態宣言の解除後、半年以内に総選挙を実施することを規定している。しかし、国軍は宣言の延長を繰り返しており、実施のめどは立っていない。
総選挙が行われたとしても、NLDの解散で国民の圧倒的な支持を得てきた民主派は参加しないこととなる。国軍は総選挙で国軍系の政党を勝利させ、自らが主導する統治体制の確立をもくろんでいる。選挙の形骸化は避けられない。
NLDは、軍政下の1988年にスーチー氏らが民主化を求めて結党。90年の総選挙で圧勝したが、軍政が政権移譲を拒否した。2015年に行われた民政移管後初の総選挙でも大きな勝利を収め、16年に政権を発足させた。
スーチー氏と共にミャンマー民主化の象徴と言える政党であり、その解散はミャンマーにおける民主主義の死を意味する。NLDでは、これまでに党員90人が国軍に殺害され、1200人以上が拘束下にあるという。
スーチー氏も国軍の統制下にある裁判所で刑期が計33年となる有罪判決を言い渡された。国軍記念日の式典で演説したミンアウンフライン総司令官は、民主派勢力を「テロリスト」と呼んで「断固とした行動を取る」と述べ、弾圧を正当化した。
懸念されるのは、ミャンマーが中国やロシアなどの強権国家との結び付きを強めることだ。クーデター以降、国軍の作戦で使用した航空機はすべて中露両国が供給したとされ、少数民族武装勢力や民主派勢力の拠点への空爆などに投入された。
現状では繁栄できぬ
ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、日本を含む各国企業が進出していたが、クーデター後に撤退する事例が出ている。投資を控える動きも広がり、外貨不足も深刻化するなど、ミャンマー経済は大きな打撃を受けている。
国軍が政治犯を釈放し、速やかな民政移管を行うなどの措置を取らない限り、安定と繁栄を実現することはできない。



