
国会に相当する中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)は習近平氏の国家主席と国家中央軍事委員会主席の3選を満場一致で決めた。首相には共産党序列2位の李強氏が選出された。李氏は前の上海市トップで、習氏の側近だ。
昨年秋の共産党大会で異例の総書記3期目続投を果たした習氏は引き続き、党、国家、軍のトップの座に就き、周囲をイエスマンで固めた長期政権の船出となった格好だ。
続発する大衆抗議運動
党機関紙・人民日報(電子版)は習氏の3選直後の社説で、満票の選出について「全党、全軍、全国各民族の共通の願いを反映している」と称賛。習氏を、建国の父、毛沢東らに使われた呼称である「領袖」で呼んだ。
施政方針演説に相当する政府活動報告は全人代の初日に行われ、台湾併合を念頭に置いた軍備増強の継続方針を鮮明にする一方、不動産バブルの崩壊や新型コロナウイルス禍で低迷を余儀なくされている経済の回復を最優先課題に掲げた。
人口減少や高齢化社会の到来は成長を下押しする。IT企業への締め付けなど強化される経済統制をカントリーリスクの増大とみて、中国市場から撤退する外国企業も相次ぐ。まずは景気回復に向け、財政出動を増やし、地方政府の債券の発行枠も広げる意向だが、いずれ過剰債務問題が中国経済を根底から揺るがしかねないと懸念するアナリストは少なくない。
揺らいでいるのは経済だけではない。昨年末には、新型コロナを徹底して抑え込む「ゼロコロナ」政策の即時撤廃を要求し、習政権退陣を求めるほど先鋭化した「白紙運動」が発生した。各地で何も書かれていない白い紙を若い女性たちが率先して掲げ、言論の自由のない強権国家への批判を白い紙に託した。
さらに先月には「白髪運動」も発生した。退職組の中高年世代を中心に医療保険改革に伴う給付金の大幅削減などに抗議する大規模デモだ。参加した高齢者の頭には白髪も目立ち、「白紙運動」にならって「白髪運動」と呼ばれる。
これらの大衆抗議運動が、共産党独裁政権を震撼(しんかん)させたことは想像に難くない。これまで強権統治の鞭(むち)を振るっていれば、おとなしくしていた市井の人々が突然、声を上げたのだから、中南海の政権エリートは肝を冷やすことになった。
今回の全人代で特筆すべきは、政府と共産党の機能統合を進める機構改革案の採択だ。改革案には金融監査機能を集約した「国家金融監督管理総局」やデジタルデータを管理する「国家データ局」新設などもあるが、焦点は党中央の「核心」である習氏が直接指揮できる公安、国家安全関連の組織が誕生する可能性が浮上してきたことだ。
党直轄の公安機関新設か
警察や公安活動を担う党直轄機関が新設されれば、党要人の動向やスキャンダルなども把握でき、大衆の反乱を抑え込む強力な手段も行使できるなど、独裁者にとってみれば垂涎(すいぜん)の的となる便利なツールとなる。
中国が旧ソ連のような冷酷な警察国家に成り下がることを、強く危惧する。



