埼玉県戸田市の市立中学校に少年が侵入し、男性教員を刃物で切り付けた。県警に殺人未遂容疑で逮捕された少年は「誰でもいいから人を殺したいと思った」と供述しているという。
学校正門の門扉は当時閉まっていたが、鍵が掛かっていなかったため少年の侵入を許した。全国の学校で危機管理の在り方を検証すべきだ。
校舎3階の教室に侵入
県警によると、事件当時は校舎3階の教室で在校生が試験を受けており、男性教員は教室後方で試験監督をしていた。少年が教室に侵入してきたため、駆け付けた他の男性教員3人と少年を取り押さえた際、上半身を複数箇所切られて負傷し、病院に搬送された。命に別条はないという。
教室内にいた生徒は教員の指示で避難し、けががなかったことはよかった。しかし、下手をすれば多数の犠牲者が出ていた恐れがある。少年の行動は決して許されないが、3階まで侵入を許したことは学校側の大きな反省点だ。この中学校はもちろん、全国の学校で危機管理の在り方を検証する必要がある。
2001年に大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)で起きた児童殺傷事件では、児童8人が犠牲となり、児童と教諭15人が重軽傷を負った。文部科学省は02年、不審者侵入時の危機管理マニュアルを全国に配布。08年改正の学校保健安全法では、学校での安全計画や、危機管理マニュアルの策定が義務付けられた。
だが、池田小の事件後も学校侵入は食い止められずにいる。03年には京都府宇治市の小学校で男が1年生の児童2人を負傷させ、14年にも金沢市の小学校で運動会の最中に刃物を持った男が侵入した。19年にはお茶の水女子大付属中学校で、秋篠宮殿下御夫妻の長男悠仁殿下の机に刃物が置かれる事件も起きた。池田小事件の風化を防ぎ、学校現場の危機意識を高めることが求められる。
文科省は昨年2月、マニュアルなどの評価や見直しのためのガイドラインをまとめた。ガイドラインでは、不審者侵入を防ぐため①校門②校門から校舎入り口③校舎への入り口――の3段階の観点で、施錠や死角の排除などの具体策を例示。教職員や保護者、ボランティアらによる校内外の巡視などの取り組みも挙げられている。
こうしたガイドラインを徹底していれば、今回の事件も防げたのではないか。学校現場の状況変化などに応じたマニュアルの見直しが不可欠だ。
少年の動機解明を急げ
今回の事件を起こした少年は高校生で、侵入した中学校の卒業生ではなく、教員との面識もなかった。県警の調べに対し、昼すぎに侵入したのは「確実に学校がやっているから」と供述しているという。多くの生徒がいる時間帯であることから、強い殺意があったとみていい。現場で押収されたナイフ以外にも、身柄確保の時点で複数の刃物を持っていた。
少年はさいたま市で猫の死骸の一部が見つかった事件にも関与をほのめかしている。県警は動機の解明を急ぎ、治安の強化につなげる必要がある。



