【社説】欧州安保戦略 ロシアへの圧力を強めよ

ウクライナ危機を受け、欧州では安全保障戦略を見直す動きが出ている。

ドイツ政府は今月にも初の国家安全保障戦略をまとめる。国家安全保障会議も立ち上げる方向で調整が進んでいる。英国も今春をめどに、外交・安全保障の基本方針「統合レビュー」を改定する。欧州主要国は抑止力を高め、日米などと共にロシアへの圧力を強めるべきだ。

ウクライナ危機に対処

ドイツのショルツ首相は昨年2月のロシアによるウクライナ侵略の開始直後、国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げることを表明した。これでドイツの国防費は米中に次いで世界3位になる。

英国は、ウクライナ侵略前の2021年3月に策定した統合レビューを改定する。改定版では、ロシアの脅威への具体的な対策を盛り込むという。欧州連合(EU)との安全保障面での関係改善の必要性も示すとみられている。

フランスのマクロン大統領はミュンヘン安全保障会議で、英独伊と共同で欧州の防空戦略を話し合う会合をパリで開催したいとの考えを示した。具体的にはミサイル防衛を念頭に置き、核抑止や遠距離攻撃も含めた防衛能力の向上を目指す。

欧州主要国が相次いで安全保障戦略の見直しに言及したことは、ウクライナを支え、ロシアへの圧力強化につながるものだ。英独仏は連携してロシアの力による一方的な現状変更の試みに対抗する必要がある。

ただロシアに対処する上で忘れてならないのは、プーチン大統領にウクライナはロシアの領土の一部でウクライナ人もロシア人の一部だと捉えるゆがんだ世界観があることだ。ロシアとウクライナは共にスラブ民族が多数を占める国であり、ウクライナは旧ソ連構成国でもある。しかし現在は主権国家であり、ロシアの侵略は明白な国際法違反だ。法の支配をないがしろにすることは許されない。

ロシアの横暴を許せば、覇権主義的な動きを強める中国が、台湾統一のために武力侵攻する可能性も高まる。西側諸国によるウクライナへの支援は、領土保全の尊重や民主主義の擁護といったルールに基づく国際秩序を守るための枠組みとして存在していると言える。

欧州は米国などと協力し、武器支援をさらに拡大すべきだ。昨年末に国家安全保障戦略など関連3文書を改定した日本も、殺傷能力を持つ防衛装備品の供与を早急に実現しなければならない。

日本は防衛協力強化を

英国は統合レビュー改定で、中国の位置付けも軌道修正する見通しだ。現行版では、ロシアを「英国にとって最も切迫した直接の脅威」と位置付け、中国を「体制上の競争相手」と定めた。だが人権問題や台湾有事などを念頭に、中国も「脅威」と明記すべきだと主張する声も上がっている。

「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」である。日本は米国との同盟を外交・安全保障政策の基軸としつつ、欧州主要国との防衛協力も強化して中露両国への牽制(けんせい)を強めていくことが求められる。