
新型ロケット「H3」試験機1号機の初めての打ち上げが中止された。固体補助ロケット(SRB)に着火せず、打ち上がらなかった。
原因究明を徹底し、再打ち上げに挑んでほしい。
エンジン電源系で異常
H3・1号機は1段目の液体燃料エンジン(主エンジン)に加え、SRB2本を装備している。打ち上げでは予定時刻の約6秒前に主エンジンに着火したが、その後SRBには着火せず、機体は発射台にとどまったままだった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、主エンジンが燃焼を開始した後、1段目機体の制御機器がエンジンへの電源供給系統で異常を検知。補助ロケットへの着火信号を送らず、主エンジンも停止させた。制御機器内には、電池からエンジンに電源を供給するスイッチがあるが、何らかの異常によりスイッチが一時的に切れ、電源が供給されなくなったという。
H3は、2001年に運用を開始したH2Aの後継となる2段式の基幹ロケットで、第1段には新型の液体燃料エンジンを導入。開発にはJAXAのほか、三菱重工業など民間企業が参画し、商業衛星打ち上げ市場での競争力向上を主眼に据えていた。今後20年間の日本の宇宙輸送の中心を担う存在だ。
H2Aは打ち上げの成功率約98%を誇るが、1回の費用が約100億円と高額のため、積み荷の多くは政府の衛星で、海外からの衛星・探査機の打ち上げ受注は5件にとどまっていた。一方、H3はコストカットのため、電子部品の9割に安価な自動車部品を採用。打ち上げ費用を最小形態で約50億円に下げることを目指す。
また、補助ロケットを追加するとさまざまな大きさの衛星打ち上げに対応できる。受注増に向け、工程を短縮して年6回程度打ち上げる計画だ。H3の柔軟性や低価格などを国際競争力の強化につなげたい。
そのためにも、今回の打ち上げ中止の原因を徹底究明する必要がある。JAXAは3月10日までの予備期間内に再打ち上げを目指すとしているが、今度こそ成功させてほしい。
宇宙開発では最近、民間企業の活躍が目立つ。米実業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業スペースXは、衛星打ち上げを年60回以上行っているほか、有人飛行も成し遂げている。またロシアの侵略を受けたウクライナの要請を受け、高速衛星通信サービス「スターリンク」を提供した。
宇宙領域を巡っては、20年時点で約40兆円とされた世界の宇宙産業の市場規模が、40年には約100兆円に膨らむと試算されている。軍事における通信や情報収集、ミサイル防衛だけでなく、全地球測位システム(GPS)や現金自動預払機(ATM)などの社会システムも宇宙に依存している。
民間でも宇宙人材育成を
この意味で、宇宙における安全保障政策も重要性を増している。安保は政府の役割だが、民間企業との連携強化も欠かせない。民間企業は政府と協力し、宇宙産業の人材育成や技術革新を進めるべきだ。



