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YS11以来の国産旅客機として注目されたスペースジェット(旧称MRJ)開発中止が決定した。日本の航空機産業の未来をかけたプロジェクトだったが、同産業で優位を保つ欧米の壁は厚かったと言うべきだ。失敗の検証を的確に行い再チャレンジを恐れてはならない。
型式証明取得が困難
三菱航空機は2008年にMRJの開発を開始し、当初設定した納入時期は13年だった。その後、5回の計画遅延を繰り返し、飛行試験は中断され20年10月から事業を凍結していた。これまで親会社の三菱重工業が1兆円規模の資金を投じ、国も500億円の補助金を出した。同社の泉沢清次社長は記者会見で「民間航空機の型式証明取得プロセスへの理解が不足していた」と述べた。
型式証明は機体の安全性を国が審査・確認する制度で、日本だけでなく販売先の国から得る必要がある。開発段階に応じて行われる検査で、計画の遅延、中断はいずれも型式証明に絡んだものだった。基準項目は米国のFAA(連邦航空局)が定めた規定に倣っているが、旅客機の型式証明自体が初めてで、制度の実情を十分把握できず取得できなかった。泉沢社長が痛恨事と指摘する内容だ。
ある基準項目をクリアしようとする際に、どこまで踏みこんで安全性を証明しないといけないのか。効率よく証明作業に対していくことが必要であり、ボーイングやエアバスなど欧米大手は今までの経験で、その程度がよく分かっている。三菱重工はこの間、三菱航空機の社長を何度も交代させたり、海外から技術者を招いたりしたが、かえって混乱が増した。
米欧先進国の場合、航空機の設計や開発の手法に熟練し、顧客へのアピール度も高い。米国では設計初期の段階から運航会社や部品供給会社にも製作に関与させ、パイロットがシミュレーターの試験に携わったりしている。日本は、国産旅客機の開発自体が長い間途絶えていたこともあって要領を得なかった。
一方、三菱重工は部品メーカーとしてボーイング社に提供しているが、自力で航空機全体を設計・製造する能力は不十分だったということだ。航空機の部品点数は100万点に上り、本体素材、接合加工技術、通信・電子機器など扱う産業の裾野はずいぶん広い。それが3万点の自動車とは開発や生産工程がまったく異なる。工程管理を振り返ると、果たして責任者にその実情に対する自覚がどれほどあったか、厳しく問いたい。
わが国には、製品を構成する部品や素子に関する技術者は多いが、製品本来の性能を発揮させるため、構成する部品や材料の微妙な調整を行うことのできる人材が少ないと言われる。これは日本の大手メーカーが抱えている問題だと言えよう。三菱電機や川崎重工業子会社の自社製品の不正検査が相次いで発覚したが、無関係とは言えまい。
AI世代を巻き込め
ものづくりのベテランと人工知能(AI)世代の若い技術者が一つとなって、普遍的で日本独自の協調体制を確立させ、技術大国の名に恥じない技術開発を行っていきたい。



