【社説】日比首脳会談 対中抑止で連携強化せよ

岸田文雄首相が、来日中のフィリピンのマルコス大統領と会談した。東・南シナ海で海洋進出を強める中国を念頭に、安全保障・経済両面で関係を強化することで一致。「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた連携も確認した。

共に中国の脅威に直面する日本とフィリピンが、連携強化で合意したことを歓迎したい。

両国に影響及ぶ台湾有事

両首脳が発表した共同声明では、中国の名指しこそ避けたものの、東・南シナ海の状況に「深刻な懸念」を表明し「力または威圧を含む緊張を高め得る行為に強く反対した」と明記。首相は、中国による南シナ海での領有権主張を退けた2016年の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)判決への支持を示した。

この判決は、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下したものだ。また、南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が造成する人工島に関し、排他的経済水域(EEZ)は生じないとした。

しかし中国は判決を「紙くず」と切り捨て、南沙諸島などで軍事拠点化を進めている。民主主義国が重んじる「法の支配」をないがしろにする動きだ。首相は「フィリピンは隣国であり、基本的価値を共有する戦略的パートナーだ」と強調した。日比両国は中国に判決に従うよう強く求めるべきだ。

中国は南シナ海だけでなく、東シナ海でも挑発行為を続けている。昨年末には、中国海警船が沖縄県・尖閣諸島周辺の領海に72時間45分にわたって侵入。12年の尖閣国有化以降で最長となった。侵入中には日本漁船に接近するなどの危険な行動を取っており、尖閣周辺での動きが活発化している。中国が台湾に侵攻すれば、尖閣も占拠されるとの見方が強まっている。

日比は台湾を挟む形で位置するため、台湾情勢はフィリピンにも大きな影響を与える。日本は対中抑止効果を高めるため、巡視船の供与などでフィリピンの沿岸警備隊の能力向上を支援している。中国による台湾侵攻に共同で備える必要がある。また米軍も台湾有事の際には、フィリピンを作戦拠点にするとみていい。日米比の連携強化が求められる。

マルコス氏は、日本が昨年末に決定した国家安全保障戦略で、同志国の抑止力向上のための装備品提供などを行う新たな安保支援の枠組みを設けたことを歓迎。さらに会談に合わせ、両国は自衛隊がフィリピンで人道支援や災害救援を行う際の手続きを簡素化する取り決めを交わした。防衛全般の共同訓練に適用される円滑化協定(RAA)の締結などにつなげるべきだ。

自由経済で地域の発展を

中国は、安保面で米国との協力を強化するマルコス政権を、経済支援などで引き止めようとしている。ただ中国の経済圏構想「一帯一路」では、巨額融資によって相手国への支配を強める「債務のわな」が批判の的となっている。

日米はフィリピンを自由経済で地域全体の発展を目指す方向に導いていく必要がある。