【社説】中国偵察気球 情報収集活動への警戒強めよ

米本土上空を飛行した中国の偵察気球に対し、米軍は南部サウスカロライナ州沖合の大西洋上の領空内で戦闘機からミサイルを発射して撃墜した。

気球の飛行は、米国の主権を侵害し、国際法に違反するものである。米国をはじめとする西側諸国は、中国の情報収集活動への警戒を強めるべきだ。

ローテク兵器も活用か

米軍は撃墜した気球の残骸を回収し、気球が収集していた情報などの分析を行う。実態解明を急ぐ必要がある。

気球はアリューシャン列島やカナダの上空を通り、北西部モンタナ州で発見された。モンタナ州には、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)が配備されているマルムストローム空軍基地がある。オースティン米国防長官は「米本土の戦略的拠点を監視する目的で中国が使用していた」と断言。ブリンケン米国務長官が「無責任な行動だ」と批判し、予定されていた訪中を延期したのは当然だ。

一方、中国は気球について「気象研究用」と主張して「民間のもので、不可抗力によって米国に入った」などと説明。撃墜は「明らかに過剰反応であり、厳重に抗議する」とし、対抗措置を示唆した。外国の領空に無断で気球を飛ばし、撃墜されれば強く反発するのは、極めて異質な対応だと言うほかはない。

中国軍は衛星などのハイテク装備と共に、気球などのローテク兵器の運用も増やしていくもようだ。気球は安価で大量に製造することが可能で、無人のため撃墜されても人的被害を出さずに済む。衛星で監視し切れない場所や時間帯での偵察を行う目的で運用されているという。

もっとも中国が気球を米国上空に飛ばしたのは、情報収集だけが狙いではないようだ。米政府内では中国が意図的に気球が見つかるようにしたとの見方が広がっている。米国が台湾有事を警戒する中で「中国は米国に対して『われわれの勢力圏に侵入するなら、われわれも領土に侵入する』と事実上語った」と捉える有識者もいる。

台湾有事を巡っては、今年に入ってからも米国では強い懸念の声が上がっている。空軍航空機動軍団司令官のマイク・ミニハン大将は、2025年までに中国が台湾に侵攻し、米中戦争が起こり得ると内部メモで警告したと報じられた。中央情報局(CIA)のバーンズ長官も講演で、中国の習近平国家主席が人民解放軍に対し、27年までに台湾侵攻の準備を整えるよう指示したことを「情報として知っている」と主張した。

気球飛行が中国の身勝手な「挑戦状」だとすれば、米国は日本など同盟国との連携強化をはじめ、あらゆる手段を用いて中国の台湾侵攻を抑止しなければならない。

日本は包囲網強化を

日本は、中国に対する先端半導体の輸出規制に踏み切る方針だ。米国は昨年10月、安全保障上の懸念を背景に、半導体製造装置や関連技術の対中輸出を事実上禁じる措置を導入。製造装置などに強みを持つ日本やオランダに対し、規制に追随するよう求めていた。日本は米国など西側諸国と共に対中包囲網を強化すべきだ。