【社説】農産品輸出拡大 農林水産業の振興につなげよ

2022年の農林水産物・食品輸出額(速報値)は、前年比14・3%増の1兆4148億円に達し、10年連続で過去最高を更新した。

海外市場を取り込んで農林水産業の成長産業化を図り、地域経済の活性化につなげたい。

コロナ禍からの需要回復

農産品の輸出額は21年に初の1兆円超えを果たした。22年の伸びは、新型コロナウイルス禍からの外食需要回復に加え、台湾や英国、インドネシアでの輸入規制緩和・撤廃の動き、年間を通じた円安基調などが追い風となった。

品目別で輸出額の大きさが目立ったのはホタテで、42・4%増の910億円だった。ウイスキーは米国や中国のほか、シンガポールや英国向けも拡大し、21・5%増の560億円に上っている。海外では和食ブームが広がり、美味で品質の高い日本の農産品が高く評価されていることが分かる。

政府は20年11月、農産品の輸出拡大に向け、和牛を含む牛肉やホタテ、リンゴ、ブリなど27品目を重点品目と決め、生産体制強化への集中支援を盛り込んだ実行戦略を策定。海外向けに特化した産品を地域ぐるみで生産する「輸出産地」という枠組みを導入した。30年の輸出額5兆円目標に向け、25年に2兆円とした中間目標の前倒しを達成したい考えだ。農産品の輸出拡大を農林水産業の振興や地域活性化につなげてほしい

ただ、欧米での物価高騰に伴う消費低迷や、今後予定される東京電力福島第1原発からの処理水の海洋放出などの影響を懸念する見方もある。しかし処理水に関しては、国際原子力機関(IAEA)が昨年4月にまとめた報告書で、放射線が人体に与える影響について「日本の規制当局が定める水準より大幅に小さいことが確認された」と指摘している。科学的根拠に基づく情報発信を強化し、安全性に対する海外の不安を払拭(ふっしょく)できれば、国内の風評根絶の動きも強まろう。

一方、国内で開発されたブランド農産品の流出は依然深刻な状況だ。高級ブドウ「シャインマスカット」の中国への流出だけでも年間100億円以上の損失が生じており、イチゴやサクランボなどを含めた全体の損失額は1000億円超とされる。

21年4月には改正種苗法が施行され、種苗の国外への持ち出しを制限できるようになった。無断持ち出しには、10年以下の懲役または1000万円以下(法人は3億円以下)の罰金が科される。ただ、種苗がいったん海外に持ち出されると国内法を適用できないほか、現地で品種登録しない限り、無断栽培として取り締まれない。

農林水産省は23年度に、専門家が知的財産権を管理・保護する機関を設立する方針だ。ブランド農産品の開発者には自治体や中小事業者が多いため、専門機関が海外での登録手続きを担うことで不正流出の抑止効果を高めることが期待されている。

デジタル化で魅力向上を

農林水産業は担い手の高齢化や減少が進んでいる。農産品の輸出拡大に向けてデジタル化などを着実に進め、魅力ある産業としていくべきだ。