電力大手6社で、子会社が管理する新電力の顧客情報が不正に閲覧されていた。公正な競争を揺るがし、電力自由化の理念に逆行する行為は許されない。
関電では4万件以上
関西電力では、昨年4月から12月19日までの間、家庭向け契約の顧客情報4万806件が不正に閲覧されていた。関与した社員らは1013人に上る。
これまでの調査では、昨年9月からの3カ月間で1万4805件、閲覧者726人だったが、いずれも大幅に拡大。不正の常態化がより鮮明になった。不正閲覧は東北電力や中部電力、中国電力、四国電力、九州電力でも判明している。
電力業界では2020年、新電力も利用する送配電事業の中立性を確保するため、大手電力の発電部門と送配電部門を分離する「発送電分離」を実施。電気事業法では、親会社が送配電子会社の情報を営業活動に利用することを禁じているほか、情報の遮断も求めている。
それにもかかわらず、親会社で顧客情報が不正に閲覧されれば、新電力に対して有利に営業を進めることができ、競争環境がゆがめられることは避けられない。関電では、これまでに社員30人が社内調査に対し、閲覧は営業活動のためだったと回答している。閲覧した情報のうち、842件は営業活動に利用されており、実際に12件が電力の契約を関電に切り替えた。
しかも、不正閲覧した社員の4割が電気事業法上の問題があることを認識していたという。関電の業務用システムは送配電子会社と共有されていたが、特定の操作をすれば関電側から顧客情報が見られる状態になっていた。社員は閲覧方法を上司や同僚から伝えられており、長期間にわたって継続してきたとみていい。法令順守意識の欠如には唖然(あぜん)とさせられる。
経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会は、関電と送配電子会社に電気事業法に基づく立ち入り検査を実施した。関電の不正は件数が多く、悪質性も高いとみて業務改善命令なども視野に厳しく追及する方針だ。役員ら経営幹部による関与がなかったかについても調査する。
関電も社外弁護士らによる原因究明を進めるとしている。他の電力会社も含め、関係者の厳正な処分と共に再発防止の徹底が求められる。まずは、親会社の不正閲覧を防ぐシステムの構築を急ぐべきだ。
電力業界では昨年、関電、中部電、中国電、九州電が顧客獲得競争を制限するカルテルを結んでいたことが発覚。課徴金の総額は約1000億円で過去最高となった。これ以上、顧客の信頼を損なうことがあってはなるまい。
新電力の経営安定も鍵
一方、エネルギー価格高騰の影響で21年度の新電力の倒産件数は単年度として過去最多の14件に上った。自前の発電所を持たず、価格が変動しやすい卸電力取引所からの調達への依存度が高かったためだ。
電力自由化の定着には、新電力の経営安定も鍵となろう。今後の事業参入の認可には、電力の安定供給を継続できるか厳格な判断基準が求められる。



