【社説】日英安保協力 インド太平洋の安定に重要

日英共同訓練「ヴィジラント・アイルズ22」の訓練開始式で整列する英国陸軍の兵士と陸自隊員ら =2022年11月22日午前、群馬県の相馬原演習場

フランス、イタリア、英国、カナダ、米国の欧米5カ国を歴訪した岸田文雄首相は、英国でスナク首相と会談し、自衛隊と英軍が相互の国を訪問する際の法的地位などを定めた円滑化協定(RAA)に署名した。

ユーラシア大陸を東西で挟む日英両国の安全保障協力強化を歓迎したい。

両首脳が円滑化協定署名

RAAは、自衛隊と他国部隊が共同訓練や災害支援などで相手国を訪れる際の手続きの簡素化や、相手国内での法的地位などを規定した協定。日本が署名するのは、準同盟国と位置付けられるオーストラリアに次いで2カ国目となる。

RAAの締結で、共同演習や災害救助活動などの円滑な実施が期待される。岸田首相は「日英安保協力を新たな高みに引き上げるものだ」と述べ、英首相官邸は「過去1世紀以上で日英間の最も重要な防衛協定」と意義を強調した。

日英両国は近年、安保協力を深めている。2017年1月には燃料などの物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)を締結。21年9月には英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が日本に初めて寄港した。昨年11月に日本周辺の海空域などで行われた自衛隊と米軍の共同統合演習「キーン・ソード」では、英国も一部訓練に参加。先月にはイタリアを含む3カ国で航空自衛隊のF2戦闘機の後継機を共同開発・生産することで合意している。

両首脳はウクライナ情勢について、先進7カ国(G7)が結束して同国への強力な支援と厳しい対露制裁を継続させることで一致。東・南シナ海での力による一方的な現状変更に反対するとともに、中国の経済的威圧に連携して対応することや、台湾海峡の平和と安定の重要性で認識を共有した。

国際法を無視し、他国の主権や領土を侵害する中露両国に強い姿勢を示すのは当然だ。両首脳は、早期に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開くことで合意した。

英国はインド太平洋への関与強化政策を打ち出しており、21年9月には米豪両国と共にこの地域の平和と安定維持に向けた新たな安保の枠組み「AUKUS(オーカス)」を立ち上げた。自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値観を共有する日英両国の安保協力は「自由で開かれたインド太平洋」を実現する上で重要だ。AUKUSと、日米豪とインド4カ国の枠組み「クアッド」の連携強化も求められる。

両首脳は、環太平洋連携協定(TPP)への英国加入交渉の早期妥結に向けた協議加速も申し合わせた。高水準の貿易・投資ルールを持つTPPに英国が参加すれば、国有企業への補助金やウイグル人への強制労働などの問題がある中国への牽制(けんせい)となる。英国加入を米国のTPP復帰への呼び水ともしたい。

欧州主要国と連携深めよ

岸田首相はフランスではマクロン大統領と会談。フランスは南太平洋に領土を有しており、首相は「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だ」と指摘した。日本は欧州主要国との連携を深める必要がある。