【社説】認知症治療薬 期待される介護負担の軽減

製薬大手エーザイが米バイオ医薬品大手バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が、米食品医薬品局(FDA)に迅速承認された。早期患者の症状進行を遅らせるとされ、患者や介護に当たる家族には朗報だ。

症状進行を遅らせる効果

認知症患者は全世界で5000万人以上と言われ、その約7割がアルツハイマー病だ。症状が進むと脳が萎縮し記憶や思考能力が失われ、最終的に日常生活が困難になる。

レカネマブは、脳内に蓄積して病気の原因になるとみられるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」を除去し、症状の進行を抑制する効果が期待されている。臨床試験(治験)では、この薬を投与しない患者に比べ、症状の悪化を27%抑える効果が確認された。一時的に症状が改善しても認知機能低下のスピードは変わらない従来の治療薬に対し、画期的効果だと言える。

今回の承認は特例措置で、エーザイは公的保険適用が制限されない形での承認をFDAに申請。3月末までに日本、欧州でも申請し、2023年度中の承認取得を目指す。

エーザイとバイオジェンは、レカネマブに先立ち、アミロイドβに作用する世界初のアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」を共同開発し、21年6月にFDAから迅速承認された。ただ有効性について疑いが持たれ、保険の適用が制限されたため普及していなかった。

レカネマブはアデュカヌマブよりも有効性や安全性の面で優れていると指摘されている。新薬によって軽症や中等症にとどまる患者が増えれば、家族などの介護負担が減ることも期待できよう。

しかし、課題も多い。新薬の米国での卸売価格は患者1人当たり年2万6500㌦(約350万円)程度に設定された。日本でも年間100万円単位になるとみられており、公的保険の適用で普及すれば財政負担が膨らむ懸念もある。

レカネマブの対象となる早期患者を見つけるための検査体制整備も欠かせない。対象かどうか確認するには、脳内のアミロイドβの蓄積量を事前に陽電子放出断層撮影(PET)や脳脊髄液(CSF)といった検査で調べる必要がある。このような検査を行う施設は国内では限られるだけでなく、PET検査には数十万円かかる。レカネマブには、脳の腫れや小さな出血などの副作用も報告されている。

もっとも症状の進行を抑えられれば、介護の負担を減らすことができる。費用対効果に関しては、財政負担だけでなく、介護のコストをどれだけ減らせるかも考える必要がある。

「健康寿命」延ばしたい

アルツハイマー病については新薬の開発だけでなく、予防策の啓発も重要だ。予防には、ウオーキングなどの運動や、魚、野菜、豆類などの摂取、過度な飲酒を控えることなどが挙げられる。人とのコミュニケーションも効果があるという。

要介護状態に陥らず、日常生活を支障なく送れる期間を示す「健康寿命」は19年、男性が72・68歳、女性75・38歳だった。これをさらに延ばしたい。