政府は東京圏から地方への移住者を年間1万人に増やすことなどを柱とした「デジタル田園都市国家構想」の5カ年総合戦略を閣議決定した。地方のデジタル化推進を地域活性化に繋げる計画だが、新型コロナウイルス禍による地方移住の波をより大きなものにする必要がある。
デジタル技術を活用
岸田文雄首相は「創設した交付金を活用し、優良事例を横展開しデジタル実装を着実に進めていく」と語った。
総合戦略では、2023年度から27年度の5年間で地方のデジタル化を重点的に推進し、デジタル技術の活用で都市から地方への流れをつくって「東京一極集中」の是正を目指す。具体的には、高速通信規格「5G」の人口カバー率を、20年度末の30%から30年度末に99・9%に引き上げ、光ファイバー回線もほぼ全世帯への普及を目指す。
地方での受け入れ態勢としては、サテライトオフィスの整備を目指す。公的にサテライトオフィスを整備する地方自治体を27年度に1200と、22年8月の654から2倍に増やす。地方での起業も27年度に1000件程度を目標に据える。
ドローンを使った新たなサービスや、無人自動運転移動サービスを全国100カ所以上で実現する目標も盛り込まれた。高齢者などデジタルに不慣れな人のスマートフォン操作などを手助けするデジタル推進委員は27年度までに5万人を確保する。
昨年コロナ禍の影響で、東京では「転入超過」の数が前年より2万5692人減って統計を取り始めた14年以降最少となり、23区では初めて転出者が転入者を1万4828人上回る「転出超過」となった。
ただ、その転出先を見ると、首都圏の神奈川、埼玉、千葉の3県が多数を占めている。総合戦略では、この3県を含む首都圏から地方への1万人移住を掲げており、達成のためにはより強力な後押しが不可欠だ。年度ごとに検証し、必要であれば速やかに改善・強化策を講じることが求められよう。
コロナ禍でテレワークが普及したことで、働き方や働く場所の固定観念が崩れつつある。これまで政府が盛んに旗振りをしながらも、なかなか成果の上がらなかった東京一極集中打破への大きなチャンスだ。
自然が豊かで子育て環境としても望ましい地方への移住を考える若い人たちは増えている。一番の課題が雇用環境だが、地方のデジタル環境の整備で、企業の地方移転が後押しされることを期待したい。
農業や林業、水産業でも、デジタル技術の活用で新しいビジネスモデルをつくり上げようとする動きが起きている。第1次産業とデジタル技術の融合によって、収益性の高い農業や漁業が開拓されつつある。また、地方の産業の柱の一つである観光業もインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加をにらんで、デジタル化を進めて収益性を高めることができるはずだ。
まずは1万人の実現を
地方移住への関心の高まりを一過性のものに終わらせてはならない。政府は地方と緊密に連携し、まずは地方移住1万人を実現すべきだ。



